いちめんに唐辛子あかき畑みちに立てる童のまなこ小さし
斎藤茂吉『赤光』から主要な代表歌の解説と観賞です。
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いちめんに唐辛子あかき畑みちに立てる童のまなこ小さし
(読み)いちめんに とうがらしあかき はたみちに たてるわらべの まなこちいさし
歌の意味と現代語訳
一面に唐辛子の赤く実る畑の道に立っている子供の目は小さい
出典
『赤光』大正元年 12 郊外の半日
歌の語句
まなこ・・・目
表現技法
句切れなし
解釈と鑑賞
ことごとく「西洋近代絵画」の手法と評される一首。
原色の畑に立つ童子の細い目に焦点を集約させる。
塚本は「おそらくは栗鼠を思わす黒く探しげな目(中略)日本でもほぼ同時代の、岸田劉生などの作品に、この歌の「まなこ」に通ずる不思議な視線を見たような気がする」とまで言っている。
なお、この「郊外」の場所は、東京中野の新井薬師辺りだとのこと。
佐藤佐太郎の評
強烈な原色の風景で、以前の根岸派にはなかった感覚である。そして、そこに立っている子どもの目が小さいというのが、さらに鋭い感覚である。唐辛子が一面に赤くなっている畑に立つ童子像は、「まなこ小さし」という一語によって生きている。
この言葉によって童子は背景と融合し、他をもってかえることのできないものになっている。強烈な原色を背景としたために浮きたって見える羞じらい、やさしさのようなものが「まなこ小さし」によって捉えられている。(「茂吉秀歌」佐藤佐太郎)