朝日歌壇3月19日 金子兜太さん追悼歌多数 オリンピックの歌 介護短歌 雪の歌  

広告 朝日歌壇

朝日歌壇3月19日 金子兜太さん追悼歌多数 オリンピックの歌 介護短歌 雪の歌

2018年3月19日

※当サイトは広告を含む場合があります

朝日新聞の朝日歌壇から好きな歌を筆写して感想を書いています。
今週の朝日歌壇は金子兜太さん追悼歌、オリンピックの歌、介護短歌など。

馬場あき子選

スポンサーリンク




意味もなく泳げた夏ははるかなり常に乾かぬ友の胸板  後藤進
おもしろい歌。子供の時や若い時は、「意味もなく」何事も懸命にすることが可能だった。年を経た今はそのような無謀なことはしない。大人になるとはつまらないことでもある。「常に乾かぬ」という発想もめずらしく独創的だ。



「今朝看取りに入りました」耳打ちするヘルパーさん居て静もるホーム 冨山俊朗
 
介護短歌というのは、今では確立されたジャンルになった。それだけ高齢者の割合が多く、誰でもが介護に少なからずかかわりを持たざるを得ない。「ホーム」が老人ホームのことだというのも、今では周知のことだろう。
この歌はその中でも、介護の最終章「看取り」を扱って興味深い。第三者が行うサービスとしての看取りも新しく、そして今以上に当たり前のことになっていくのだろう。
ボール蹴る甥っ子こんがり小麦色シンガポールは毎日が夏 松本亜紀
「甥っ子こんがり小麦色」のコ音とリズムが良い。さらに「甥はこんがり」と比べると促音の効果も見逃せない。
そして、「ボール」と「シンガポール」。とても上手な歌だ。鳩時計を拭けば振り子が動き出す春の陽光よろこぶように 長山弘

そういえば鳩時計は最近あまり見かけなくなった。「陽光」は漢語だが、和語で置き換える手もあるだろう。

林立すビルのごとくにクルーズ船アドリア海の青に浮かびぬ  稲村忠衛

絵葉書のような景色をほうふつとさせる歌。
「林立す」のサ変動詞は、名詞に続けるなら連体形は「する」のはず。

佐佐木幸綱選
住宅問題を思わせる二首に注目。 

兜太逝き今は秩父の狼と遊んでいるか唄っているか 毘舎利愛子
 
金子兜太さんは俳句の愛好者のみならず、歌詠みにも、そして一般にも愛された。
金子兜太さんの追悼歌は、下に永田選者がたくさん選んでいる。
冬晴れに合羽長靴飼い犬の日向ぼこする軽トラの上  涌井武徳
共選の歌。言葉が多くリズムが良い。晴れの日のトラックの上にはいろいろな物が載るものか。
町内の人の記憶はいつまでぞ我が家の跡にビルの上書き 近藤ゆかり
うーん、跡地にビルが建つならむしろうらやましいくらいだ。空き地、もしくは空き家のままが地方では問題になって久しい。さびれた空き家のままで、忘れ去られていく。
思わず地名を見ると「福岡市」の方。よい所にお住まいだ。
生き残りの椿小さき蕾つけ古き団地も光の二月  吉村薫
団地の庭に残った椿。おそらくは、年数が経った木は枯れたか伐採したのだろう。他の家も同じでくすんだ町の中に、やがて色鮮やかに椿が咲くのが待たれる。たるむほど長く引かれし電線の端のみつかふ椋鳥の群れ  松橋雅美

読んでいて、その発見に驚いた。
長く引かれた電線は、中央がたるむ。安定性が悪いので、鳥はそこにはとまらないのだ。
写実派の「写生」を思わせる観察の細かさがある。ひとりづつ雛飾りゆくわが裡に吾娘(あこ)はいくども幼子となる  新妻順子


一読して鳥肌が立つほど好きな歌。この数秒間に涙ぐむ私の人生の何かが変わった気がする。



高野公彦選
雪の歌とオリンピック選手の歌。 

二坪に花を商ふ店あればはなやぐごとく降るはるの雪  長野なをみ
 
「ふたつぼ」「はな」「はなやぐ」「ふる」「はる」のハ行音の連続。これが冬の、でなく「はるの雪」だからいいのだが、春は漢字でないため作者が「はる」の音を欲したことがわかる。
てのひらに春のひかりを掬ふとき迷ひ雪ふるふたひらみひら  佐藤幹夫


これも上手な歌。「迷ひ雪」というのは作者の造語になるのだろうか。「ふたひらみひら」もきれいな音と言い方だ。
跳びかかる猫のかたちで時を止め号砲を待つ小平選手  水野一也


アナウンサーが「けもののよう」と述べたことで、「女性には不適切」との非難が殺到したらしいが、それを逆手に取って歌にされたのかもしれない。
「跳びかかる猫のかたち」なら、小平選手にもぴったりな気がする。熱烈なファン数多(あまた)いて友人はいないと語る金メダリスト  加茂智子


なぜ友人がいないのかまでは詠まれておらず、競技生活の厳しさが言外にうかがえる。おそらくインタビューでもそうだったのだろう。それを感じた作者の歌。

痩せるため始めたヨガは私の芯もう体重はどうでもよくて  上田結香


いい歌というより、いい状況を共に喜べる気持ちになる歌。それほどの気持ちはなく始めたものが、ライフワーク、生きがいともなっていく。読んでいて素直にうらやましい。作者の素直さが伝わったのだろう。

かかる世をグラハム・ベルも嘆くらむ電話が詐欺のツールとなりて 小野沢竹次

せっかく便利なものを役立ててもらおうと発明したものが、詐欺の道具となり果てるとは。それを発明者の嘆き、という視点から詠んだもの。最近問題の詐欺を詠んだ歌はたくさん見かけるが、発想がおもしろい。

 

永田和宏選
山寺の父の頭を「禿げたな」と撫でて笑ひし兜太先生  齊藤紀子
蕗味噌をなめなめ酌みて懐かしむ金子兜太選の十句目  渡邉隆
大きいなあ金子兜太の抜けた穴「死ぬ気がしない」つて言つたのに  島田章平


俳人だが、追悼歌が全部で9首ある。長く生きるほど惜しまれる人がいる。
素晴らしいことだ。

書も素晴らしい。
右は岡井隆との共著。





-朝日歌壇

error: Content is protected !!