桜の短歌を思い出す季節が巡ってきました。
桜を詠んだ短歌作品、現代短歌と近代短歌からよく知られた有名で代表的な桜の短歌をご紹介します。
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桜の短歌の現代短歌
桜の短歌や和歌は、古くから良い歌がたくさんあり、桜の花はそれだけ愛され続けてきた植物だともいえます。
桜を題材にした短歌をご紹介します。
現代短歌の桜の短歌
まずは、現代短歌からです。
他の時代の桜の短歌はこちらから
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さくらさくらさくら咲き初そめ咲き終わりなにもなかったような公園
作者:俵万智
桜は、美しい花なのに、無常観や、生のはかなさを表すことが多いようです。
とはいえ、年齢が若い人がいきなりその境地に至るはずもありませんが、この短歌は桜が咲く前と後の桜にまつわる時のうつろいに焦点を当て、やはりある種の無常観や虚無にも近いものを詠っているのでしょう。
「さくらさくら」そして「さくら」とまたつながることで、桜が満開に咲いている様子が浮かびます。
しかもこの桜は、平仮名表記なので、花びらがたくさん重なっている様子を視覚的にも伝えています。三句目の句切れと体言止め。そして結句が体言止めとなっています。
さくら花幾春かけて老いゆかん身に水流の音ひびくなり
作者:馬場あき子
「老い」という言葉がある通り、老いの歌ではあるのですが、今のことではなく、まだこれから年の巡りと共に「老いていくのだろう」と作者は詠っています。
下句は、桜の花を見ていると、そのような時の意識が身に静かに響くように思われてくるということで、やはり、時の流れの象徴として、桜が詠われています。
身に響く水流の音も同じく時の流れを思わせる要素ですが、老いの予感はあれど、みずみずしい作者の心をも思わせます。
ほれぼれと桜吹雪の中をゆくさみしき修羅の一人となりて
作者:岡野弘彦
美しく見とれるような桜吹雪。しかし、作者はそれを眺めているのではなくて、その中にいるのだというのが三句。
そして、修羅という言葉を見れば、作者自身がその桜吹雪の激しさに同化する情念を抱えており、それを自ら寂しんでいるということがわかります。
この作者はとても好きな歌人です。
美しい調べの整った歌で、柔らかくも強い情念を詠うのが特徴です。
「はなびら」と点字をなぞる ああ、これは桜の可能性が大きい
作者:笹井宏之
指先でそっとたどる点字が、「はなびら」という文字だとわかったとき、作者に桜の想念が浮かびます。桜を目で見ているのではないのです。
指の感覚が作者にそれを伝えるのです。とても感覚的な作品です。
葉桜を愛でゆく母がほんのりと少女を生きるひとときがある
二首目、作者は花の間を歩いていくお母さんを見ている。葉桜に残った花を喜ぶところに、少女であるお母さんを見ているわけです。
好きな歌人なので、若くして早世されたことが惜しまれます。
ちる花はかずかぎりなしことごとく光をひきて谷にゆくかも
作者:上田三四二
谷の上にある桜、おそらく山桜でしょう。その花びらの一つ一つが光って、光を谷に連れて行くかのように風に乗って谷を降りてゆく。
作者が病を抱えていた身でもあり、そう思って読むとなお、悲しくも美しい作品です。
さくらばな陽に泡立つを目守(まも)りゐるこの冥き遊星に人と生れて
作者と出典: 山中智恵子 歌集『みずかありなむ』
解説
桜の花の咲き盛る様子を「泡立つ」と比喩で表現しています。
さくら咲くその花影の水に研ぐ夢やはらかし朝(あした)の斧(おの)は
作者: 前登志夫
作者は、独特のアニミズム、自然観照の作品を詠む歌人です。
さくらにも運命はありあんぱんのへそにすわってしっとりと咲く
作者:鈴木美紀子
現代短歌の最先端を担う作者。
考えてみれば、「こんなところに桜があるとは、驚くような場所なのです。
近代短歌の桜の短歌
現代短歌よりやや古い時代の桜の短歌の代表的な作品hなこちらです。
桜の花ちりぢりにしもわかれ行く遠きひとりと君もなりなむ
作者:釈迢空
釈迢空こと折口信夫は、上の岡野弘彦が師事した国文学者であり歌人です。
解説
学校の教員でもあった彼が卒業生にあてたものです。
関連記事:
釈迢空の短歌代表作
夕光(ゆふかげ)のなかにまぶしく花みちてしだれ桜は輝(かがやき)を垂る
作者:佐藤佐太郎
しだれ桜は、ごく普通の桜とは姿が違います。
この歌はさらに、夕べの光が桜の背景にあります。作者は、まもなく暮れていくだろう一日の最後の光の中にある桜を愛惜して詠っているのですね。
同じ作者に「桃の木はいのりの如く葉を垂れて輝く庭にみゆる折ふし」という有名な歌もあります。
いずれも花の美しさが敬虔なものにまで高められています。
桜ばないのち一ぱいに咲くからに生命をかけてわが眺めたり
作者:
岡本かの子 「岡本かの子全集」より
現代語訳:
桜の花は春の盛りを全生命を傾けるかのうように咲いているので、私も自らの命をかけて真剣に桜を眺めよう
染井桜みにくき幹の老いざれてなほこの年の花をかざすか
作者:土屋文明『自流泉』昭和22
100歳まで生きた歌人は、老いた自らの身を桜の花で飾るのです。
いたつきに三年こもりて死にもせず又命ありて見る桜かな
作者:正岡子規
意味:病気をして三年間こもっていたが、死なずにまたも見ることができた桜なのだ
岩かげに立ちてわがみる淵のうへに桜ひまなく散りてをるなり
作者:若山牧水
牧水には歌集「山桜の歌」があり、山桜が多く詠まれました。
以上、桜を詠んだ短歌を、近代短歌と現代短歌の有名なものから、ご紹介しました。