教科書の短歌

深々と人間笑ふ声すなり谷一面の白百合の花 北原白秋短歌代表作品 現代語訳と句切れ,表現技法

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教科書に掲載された短歌から、北原白秋の代表短歌作品の現代語訳と句切れ、表現技法について記し ます。

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深々と人間笑ふ声すなり谷一面の白百合の花

現代語訳と意味:
深々(ふかぶか)と人間を笑う声が聞こえてくるようだ。谷一面を埋めて咲いている白百合の花の群れから

作者:北原白秋
出典:『雲母集』(きららしゅう) 1915(大正4)年8月12日初版発行

語の解説:
深々と……読みは「ふかぶかと」
「人間」の後には目的格を表す助詞「を」が省略されている
笑ふ……笑うの旧かなづかい 発音は同じ
すなり……す(る)+なり
「する」の文語の基本形が「す」

「なり」助動詞ラ変型
《接続》活用語の終止形に付く。ただし、中古以後は、ラ変型の活用語には連体形に付く。〔音・声として聞こえることを表す〕…の音(声)がする。…が聞こえるよ。

表現技法:3句切れ 体言止め 擬人法

鑑賞と解説

『雲母集(きららしゅう)』は白秋の第二歌集で、大正四年(1915)に刊行された。隣家の人妻と親しくなって、姦通罪(当時はそのような法律があった)で投獄された傷心の時期の作品が集められた集となる。

初句の「深々と」は「笑ふ」にかかる副詞だが、百合の花の群れ合う様子と、百合の花の高貴な印象を暗示してもいるようだ。

また実際には百合に笑い声が聞こえるわけでなく、無音ながら、その笑いが伝わってくるという作者の感じを「深々」と言い表しているともいえる。

その高貴で清純な印象の百合の花が、それとは正反対のところのある「人間」を笑っていると作者が感じるということが、この歌の主題である。百合が風に擦れ合うかすかな音すら、自分を含む人間へ向けられた笑いを思わせる。

いくらかの皮肉も感じさせるのは、この時期に作者が罪を問われて牢獄につながれるという苦い経験をしたためだろう。そのような荒んだ作者の気持ちが、作品成立の背景にある。

「人間」という語については、これに先んじて出版された『赤光』において、「にんげんの赤子を負へる子守居りこの子守はも笑ざりけり」という作品があり、そこからの着想とも思われる。

逆にこの歌を含む、この歌集に関して、斎藤茂吉は白秋に賛辞の手紙を送っており、実際、白秋がこれらの歌を詠んだ海岸を訪れて、自分もまた海べの風景を主題にした作品群を制作している。

さらに言えば、この時期の白秋の歌も、斎藤茂吉の歌も、その前に出版された『梁塵秘抄』の影響を多大に受けている。両者がそのテキストを詠み、また互いの歌を読みながら、作品を書き継いでいったもので、共通するモチーフは随所に見られながら、逆にそれぞれの特徴が際立っており、両者の短歌を読み比べると、作品成立のの不思議な成り立ちを垣間見ることができる。

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この作品の前後の歌

海外の浜

蛸壺に蛸ひとつづつひそまりてころがる畑の太葱ふとねぎの花

深々と人間笑ふ声すなり谷一面の白百合の花

真白なるところてんぐさ干す男煌々くわう/\と照り一人ひとりなりけり

菖蒲園

なにしかも一人ひとりひそかに白菖蒲しろあやめ咲けるみぎはに来りしものか

ひとり来て涙落ちけりかきつばたみながら萎み夏ふかみかも

明るけどあまり真白ましろきかきつばたひと束にすれば何か暗かり

真白にぞ輝りてさびしきかきつばた白き犬つれ見にと吾が来こし

あはれなる廓くるわの裏のかきつばた夕ゆふさり覗く目もあるらむか

 

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