まぼろしの光の列車 漁師の歌 金木犀 毎日歌壇11月18日号  

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まぼろしの光の列車 漁師の歌 金木犀 毎日歌壇11月18日号

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こんにちは。まる @marutankaです。
毎日新聞の毎日歌壇から好きな歌を筆写して感想を書いています。
毎日歌壇は朝刊月曜日に掲載。当記事は、11月18日の掲載分です。

毎日歌壇とは

毎日歌壇についての説明です。
「毎日歌壇」とは毎日新聞朝刊の短歌投稿欄です。俳句は「毎日俳壇」です。
新聞の短歌投稿欄は、どの新聞においても、誰でも自由に投稿できます。投稿方法の詳しいことは別記事「毎日歌壇」とは何か?毎日歌壇の紹介と他誌の短歌投稿方法と応募の宛先住所」をご覧ください。

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伊藤一彦選

「獅子舞の中からくしゃみが聞こえたよ」泣きつつ幼は驚き語る 高知市 藤原靖子

楽しい歌。子どもは純粋だから、「獅子」といえばその通りに思っているのだなあ。本当に。その間が意を詠んだ歌。

様々な過去を背負いし古老来て拡大止まぬ介護の範囲 須崎市 野中泰佑

いろいろな意味で、難しい被介護者も居るのだろう。生きてきた年月が長ければ尚更のことだ。

ごくまれに車の通る国道にバス停のあり牧水生家 春日部市 土屋和子

そういう場所にあるのかと初めて知った。牧水は宮崎出身。

ドローンは自在に斜面に近づきて錦秋の山ひとり占めにす 西宮市 神代もと

ドローンの歌は、朝日歌壇でも見かけたばかりだが、そんなにあちこちで利用されているのか。結句の「ひとり占め」が面白い。

廃校の学び舎が村のレストラン メニューの給食ランチが人気 大阪市 森岡佳世

廃校の校舎がレストランとなって復活。そのメニューがおもしろい。かつて通った人たちが、寄り集まって会食する。さながら同窓会のようだ。こんな楽しいレストランなら行ってみたい。

就活はひどく疲るるものであるからにチョコもアイスも寝酒も許す 大和郡山市 大津瑞貴

親から見た「就活」。大変そうだが頑張れ。

夕空に細き三日月引っかかる落っこちそうな危うさはらみ 橿原市 奥野和子

ああ、そういう見方もあるのだなあ。今度夜空を見上げてみます。

旅先の満足度を問うアンケート妻の不満に「やや」を加える 宮崎市 田中浩一

深い歌。旅館を出がけに妻のアンケートの回答を見ると、そう書いてある。旅館の人へのねぎらいを作者は書き足す。

米川千嘉子・選

「危ないぞ」刹那の声をかけられて何がなんだかじわりと愛を 春日市 林田久子

年代がわからないが「恋」ではなく、「愛」なのだろうな。異性ばかりではなく、相手にこう感じさせるような言動をしたいものだ。

新米を持って訪ねる義母の家九十六歳フラの名人 流山市 角田勇

何となく、楽しい歌なのだ。お元気で何より。

<きぜんの、き>なんて書けない 子の名前決めたと言われ電子辞書出す 河内長野市 寺田愛子

こちらも読んでいてほっこりする歌。子どもを持つと名づけるところから始まるのだ。子どもの人生もここから。

人の世のはかなき運命(さだめ)逃れ来て玉葱二百一心に植う 仙台市 古谷隆男

上句は具体的にはどういうことなのかわからないが、そこから逃れて植える玉葱の数がすごい。あるいみ無心にならなければ植えられない数なのだろう。

まつ黒に日に焼けし人今日は見ず秋空広く分譲地成る 吹田市 鈴木基充

文字数が少なくても、複雑な内容や、時間順が盛り込める歌は、かねがね良い歌だと思う。土地の整地をする人たちがいなくなって、広々と整った地面が空をも際立たせている。このような光景も歌になるのだなあと脱帽。

漁師らの網引く歌の変わりたり魚群ひかりて上がりくるとき 秋田市 山田愁眠

細かい観察のたまもののような歌だ。下句が美しい。

加藤治郎選

消しゴムが生きているのは減る時で わたしたちは わたしたちは 武雄市 大橋凜太郎

加藤選者も、下句の6文字のリフレインをあげていた。これが7文字だと通り過ぎてしまう。あえて調子を崩して、印象付けることも一つの技術。「滑活になることを避ける」と佐藤佐太郎は解説した。

シーソーの下に埋まった古タイヤわずかにたわむ秋のひと日に さいたま市 住谷正浩

観察が鋭い。公園のシーソーの下には半分くらいタイヤが埋まっているが、秋の光にあたたまってゴムがたわむような気がするという敏感さ。

生きているただそれだけが美しく金木犀を散らして歩く 京都市 岡本沙織

美しい歌だ。それ以上の言葉は不要だろう。

ぬれせんべいを見たことなかったその頃の想像上のぬれせんべいだ 小牧市 戸田響子

最近何かで話題になったぬれせんべい。焼き上がったせんべいを醤油につけるのだったか。ネーミングのおもしろさ。

声をころして夜のベッドに泣くひとをときどき思い出して、忘れる 益田市 長沼通郎

「ひと」とは誰なのだろう。優しいような酷薄な歌だ。

かあさんの透明な手が僕を打つカーテン開けたら飛んで行くかな 福岡市 永峰半奈

折りたたみ傘をきれいにたたむ指きっと君とは別れるだろう 東村山市 十枝内さおり

たたんでいるのが、女性なのかと思ったら、作者は女性なのだから、たたんでいるのはごく一般的に言っても男性である可能性が高い。ああ、ならば、「別れるだろう」というのも、わかる気がする。

今は性別が昔より複雑なので、女性男性の区別や恋愛模様も以前のように単純ではないところがあるが。

篠弘選

二階の灯しばし外より眺めいる明日は嫁ぐ三女の部屋の 奈良市 前田耕一

打たれる歌。自らの行為と部屋の様子の事実だけがあるだけなのだが、誰もがここに普遍的な思いを感じ取ることができる。短歌のすばらしさは、そういうところにもあるとあらためて思う。

鉄錆を鼻に感じていくたびも歩むキューポラのありたる辺り 川口市 渡辺栄治

キューポラは溶解炉のこと。斎藤茂吉の「赤茄子の腐れてゐたるところより幾程もなき歩みなりけり」をふと思い出すような歌。

木洩れ日のあまた届けるガーデンに英国風なるランチを食す 村山市 飯田正義

何となくすてきな歌。林の木陰のガーデンカフェの雰囲気が伝わる。

久びさに逢ふ友腰の曲れるを見ぬふりをして酒くみかはす 下妻市 神郡貢

高齢者同士においても、こういう気配りがあると初めて知った。

断たれたる架橋に海のひかり来て白き列車を走らせ始む 垂水市 岩元秀人

今号で一番好きな歌だ。もちろんその「列車」とは幻の列車なのだが、銀河鉄道のような抒情がすてきだ。

翼ひろげ飛びゆく鶴のタイル絵の下赤塚の栄湯も閉じき 坂戸市 齋藤正秀

上句は序詞のような感じの形容詞句。「下赤塚」は地名なのだが、この場合具体的でいい。「栄」という字がつく町名などもいろいろなところにあるのだが、町がさびれるとその名前も物悲しいものとなる。かつては、鶴の群れの飛び交うような賑わいがあったのだ。

まとめ

今日はこれからインフルエンザの予防接種を受けに行こうと思ったので、さらっと書くつもりが夢中になってしまいました。素晴らしい歌の数々に、今週も楽しませていただきました。皆さまもお体に気をつけて。ではまた来週。

 




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