雨の日の本はジップロックへ 毎日歌壇より11月12日号より  

広告 現代短歌

雨の日の本はジップロックへ 毎日歌壇より11月12日号より

2018年11月13日

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こんにちは。まる @marutankaです。
毎日新聞の毎日歌壇から好きな歌を筆写して感想を書いています。
毎日歌壇は朝刊月曜日に掲載。当記事は、11月12日の掲載分です。

毎日歌壇とは

毎日歌壇についての説明です。
「毎日歌壇」とは毎日新聞朝刊の短歌投稿欄です。俳句は「毎日俳壇」です。
新聞の短歌投稿欄は、どの新聞においても、誰でも自由に投稿できます。投稿方法の詳しいことは別記事「毎日歌壇」とは何か?毎日歌壇の紹介と他誌の短歌投稿方法と応募の宛先住所」をご覧ください。

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加藤治郎選

この手がすきよ だってあなたのちんちんが握ったときにおっきくみえる 京都市 岡本沙織

こういう歌も新聞歌壇に出てきたかと思わせる作品。加藤選者の評は「自分の手なのだろう。あっけらかんとした性愛の歌だ。促音のリズムがよい。初句七音も技巧的である。」
促音というのは「だってあなたの」「おっきく」の箇所。林あまりさんにも似ているが「おっきく」が、もっと幼い感じを醸し出す。

もうずっと幸せ/不幸という時のか細い線の闇を生きてる 名古屋市 古瀬葉月

スラッシュを使うということが視覚的にも目新しい。幸不幸の線引きをする際には、物質的なものが基準になるのだろう。今の世代は、少しくらい貧乏でも不幸を決定づけるほどでもない。あとは、自分の感じ方次第なのだろう。

日常は色と匂いで出来ていてきみの周りに咲くキンモクセイ 横浜市 水野真由美

「日常」という抽象にくっきりと輪郭を与えるものは、やはり五感に関わるものなのだ。そして、「君」もそう。

借りた本ジップロックに入れておく 君と会う日はたいてい雨だ 大阪市 白坂一歩

ジップロックの使い方が目新しいと思って読むと、下句の展開がある。

サバンナの夕陽に動かぬ象の陰ああ野生こそ祈りあるらめ 横浜市 中村秀夫

まだ下を見ていないが、今号で一番好きな歌。斎藤茂吉の「わたつみに向ひてゐたる乳牛が前脚折りてひざまづく見ゆ」を思い出す。

たましいがむきだしの夜つぶやいていいねの数だけ繭にくるまる 福岡市 永峰半奈

ううむ、歌よりも、「いいね」がそんなに暖まるものなのかと感慨ふかい。結句「くるまる」がいいね!

伊藤一彦選

たはやすく過去と他人は変へられず夜の厨に茶碗を洗ふ 霧島市 久野茂樹

上の句は既存の言葉の引用であって、それが五七五全部を占めている。特選の歌だが、さしてアイディアともいえまい。

縁側に置かれしレモンひと包み誰からと思いめぐらすは楽し 山口市 塩見昌子

先日散歩をしていたら、かぼちゃだか冬瓜だったが、どこかの家の前に置かれていたのを思い出した。無論、かぼちゃより断然レモンが良い。

この地にもまほろばありと思へども人去りゆきて過疎となる村 長崎市 田中正和

「まほろば」は一度使ってみたい言葉なのだが、そういう景色にまだ出会えない。作者の住む地にはまほろばはあっても、人がいなくなってしまった。人がいてのまほろばなのだということをあらためて思う。最初から無人であるのと、過疎は違うのだ。

三十日(みそか)の間(ま)世間の風にさらされた心を月の光で洗ふ 名古屋市 大原さゆり

これも好きな歌。三十日は月の周期で、この月は満月であることがわかる。「世間」という俗な言葉が上句の「みそか」と下句で相殺される。

篠弘・選

雨上がる舗道の点字ブロックのイエロー冴えて眩しみて踏む 長野市 大沢喜美子

評には「視覚障害者の作者にとっての歓び」とある。

常になき激しき声は夢の中誰に向かひて誰をかばひし 愛西市 坂元二男

夢とはおもしろいものだ。内容はわからないが、誰かに向かって誰かをかばったことはわかっている。

日すがらを大方の本処分して『街道をゆく』は全巻のこす 福岡市 林〓

司馬遼太郎の紀行集。週刊朝日に連載されている。今度あらためて読んでみたい。

米川千嘉子・選

戦死せし父の継ぐべき土地に建ちし見知らぬ人らの家も古びぬ 大阪市 下川佳子

複雑な内容だが伝わるように詠み切っている。作者の家のものだった土地だが、手放した後に建った家も今はない。ただその事実だけを詠んでいるが、生の無常と作者の置かれた厳しさも伝わる。今号の好きな歌。

魚釣りに虫取りに子と行く息子よかつての我にして欲しかりしこと 町田市 冨山俊朗

こちらも引かれる歌。孫と遊んでやる息子を見て思い返す作者の悔恨と感慨。結句「~こと」の後には省略がある。昔も今もそれができず、傍観するのみの父、作者のさびしさが伝わる。

男らに今それぞれの朝がある茶房に散りてパンかじりいる 秋田市 山田愁眠

雰囲気のある歌。

幼子が歌ひてみどりご泣き止みぬ車内にどつと拍手が起きぬ 横浜市 芝公男

バスの中だろうか。面白い光景に出会うものだ。

就活の資料を膝にうたた寝のをみなに肩貸す午後の車内に 行田市 望月悦子

隣り合ってもたれて眠る隣人の持ち物から、就活中だと察する優しい作者。就活の大変さを知るからこそできることだろう。

まとめ

朝日新聞と毎日新聞と毎週両方の感想を書いているのですが、毎日の方が、自由に伸び伸びと書いていることに気がつきます。最初はなぜかよくわからなかったのですが、おそらく、同じ短歌とはいっても、両紙に掲載されている作品の傾向が違うためだと思います。

逆に言えば、どこに投稿するか、どの選者に投稿するかということで、自分の作風はもちろん、そして心のあり方にも影響があるということになりそうです。なんだかとても大切なことに気づかされた気がします。ではまた来週。




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