詩人で翻訳家であるピーター・マクミランさんが、令和の典拠である「梅花の歌32首」の序文の作者である大伴旅人の短歌を英訳したものをご紹介します。
今日の朝日新聞に掲載されました。
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大伴旅人の「梅花の歌」の英訳
「令和」の出典となった序文を持つ梅や名の宴の歌のうち、宴の主催者である大伴旅人の歌です。
英訳が掲載されたのは、朝日新聞「星の林に ピーター・マクミランの詩歌翻遊」のコラムです。
大伴旅人の短歌 原文
わが園に梅の花散るひさかたの天より雪の流れ来るかも
(『万葉集』822番 大伴旅人)
英訳 ピーター・マクミラン
Plum-blossoms
scatter on my garden floor.
Are they snow-flakes
whirling down
from the sky?
日本語の現代語訳
なお、日本語の現代語訳は
「私の庭に梅の花が散る。天から雪が流れてくるのだろうか」
(新日本古典文学大系「万葉集」)となっています。
「天」を「sky」と訳した意図
また、マクミランさんは、「天」をheavensでなくskyと訳した意図について次のように説明
「天」をheavensでなくskyと訳した。
幻想的で神々しい「天」を意味するheavensよりも、現実的な「空」であるskyから花が流れてくるとする方が、英語ではかえって幻想美を際立たせられるからだ。
「見立て」について
さらに、翻訳者マクミランさんは、「見立て」について次のように説明します。
「見立て」は日本文化の重要な概念の一つで、あらゆるジャンルに影響を及ぼしている。見立てとは、あるものを別のあるものに置き換えたり、一体化させたりしてとらえる発想である。
この歌の梅の花と雪の場合は前者であり、漢詩にも好まれた雪と梅の比喩を、清らかに歌い上げている子の見立ては欧米にはないものなので、とても新鮮に映る。
見立ての定義
見立て=芸術の技法
以下はWikipedeiaより
芸術の分野で言う「見立て」とは、対象を他のものになぞらえて表現することである。別の言い方をすると、何かを表現したい時に、それをそのまま描くのではなく、他の何かを示すことによって表現することである。
和歌、俳諧、戯作文学、歌舞伎など日本の様々な芸術で、この「見立て」の技法が用いられている。喩えているとは示さずに喩えていることが多く、その場合、欧米の学術用語で言うメタファーに相当する。
万葉集翻訳の経緯
ピーター・マクミランさんは、何年か前に、万葉集んお研究における第一人者に会った際に「万葉集はまだすべて英訳されていない、あながたやりなさい」というおすすめを受けたそうです。
しかし、万葉集は4500首もあるわけですが、その方は「10年もあればできる」!
マクミランさんは、最初はまったくや乗り気でなかったものの、結局は英訳に着手することになりました。
その間の心境を、マクミランさんは
「翻訳への興味はさらに燃え上がった。なんだか、この歌集を訳すように、すべてが自然とそう向かっているように感じられた」
そしてこの新しい元号「令和」が万葉集から来ていると知ったときの、驚きと感慨は言葉に出来ないものだったといいます。
そして、覚悟を決めて、万葉集の翻訳に取り掛かってみるとの決意を述べられ、この英訳を披露されました。
また、マクミランさんは、コラムの最後の方に
この門出の日に、私は日本にいる人々の幸福が、旅人の思い描く空に流れた花びらと同じくらいたくさん豊かであるように祈る
とのお祝いの言葉を述べておられます。
今日から「令和」へ
「令和」の元号については、さまざまな意見や議論があるようですが、出典が万葉集の詩文であるということで、このような日本の文化にも触れるような部分にまで広がりを見せているということは、大変喜ばしいことではないでしょうか。
私にとっては、いささかも「文学的」な新元号の幕開けとなりました。