新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事 大伴家持 万葉集解説  

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新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事 大伴家持 万葉集解説

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新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事 大伴家持作の万葉集の有名な短歌を鑑賞、解説します。

大伴家持は、令和序文作者大伴旅人の息子に当たり、万葉集の編纂をした歌人の一人と言われています。

またこの歌は、万葉集の編纂をした大伴家持自身が、最後に置いたもので、その点でも意味深いものとなっています。

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新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事

読み:あらたしき としのはじめの はつはるの きょうふるゆきの いやしけよごと

作者

大伴家持 20-4516 万葉集 最後の歌として、作者が自ら収録

大伴家持『万葉集』の代表作短歌・和歌一覧『万葉秀歌』より

現代語訳

新しい年の初めの初春の今日降る雪のように、積もれよ、良いことが

解説と鑑賞

本歌は、令和の典拠である「梅花の歌32首」の序文作者大伴旅人の息子、大伴家持作の万葉集の一番最後の歌になります。

元日と豊年を歌った歌で、元号が令和に変わる来月も、また「新しい年」と言えそうです。

作者大伴家持について

父大伴旅人は歌人として活躍しましたが、大伴家持も、文武両方に優れた大伴氏の一族を率いていくべく、さらにいっそう歌人として優れた歌を残すと同時に、万葉集の編纂にも貢献した人物です。

この歌の詠まれた意図と背景

この歌は、因幡守であった大伴家持が天平宝字3年の正月の一日に催した新年の宴で、部下たちに披露したのがこの賀歌です。

正月の大雪は、豊年の瑞兆であり、万葉集の編者である大伴家持は祝言性の豊かなこの歌を、万葉集の最後に据えることで、万葉集を万世の後まで伝えようとする志を籠めたものでしょう。

上手な歌、秀歌というのではなく、お祝いの歌として、この歌が万葉集の最後の締めくくりとなっているところに大きな意味があります。

語句の解説

「新しき」は読みは古い読み方で、「あらたしき」との読み。

「いやしけ吉事」は、「いや」は接頭語で「ますます」「いよいよ」の意味。

「しけ」は「しく」の「あとからあとから、絶え間なく続くこと」の、その命令形。

「吉事」は、「良いこと」の意味です。

一首の解説

この歌は元日と、実りの豊かな年となるといわれる元旦の雪とのめでたさを重ねて序詞としています。

「新しき年の初めの初春の今日降る」の部分が「雪」にかかります。

この「雪」は単なる雪ではなくて、元旦に降る雪であるからこそ、二重におめでたいのです。

そのように、実際に元旦と豊年の良いことが目の前に起こっていることで、それを二つ並べた上で、さらに「しけ」、つまり「重なれ」と言ったのです。

そして、実際歌の音の上でも、上の句の「年の/初めの/初春の/」と、「の」が3回重なっており、そのように重なることを歌をもって示しているのです。

暦日からの意義

また、この歌には、それにはとどまらない暦日からの意義もあります。

ちょっと難しいのですが、詳しく述べてみますと、この歌が詠まれた当日は、暦日からいっても、立春新年(天の紀)と正月新年(王の紀)とが19年に一度重なる「歳旦立春」」という特別な日でした。

王権賛美のこころ

そして、大伴家持はこの暦日というものにも詳しい知識がありました。

というのは、古代の暦というのは、帝王が独占する当時の時間的な根本原理であり、国守であった大伴家持はその統治の執行者でもあります。

つまり古代には、暦の神秘性は政治ともかかわりがあったのです。

この歌が詠まれた日の真のめでたさは、その19年に一度のイベント「歳旦立春」にあるということになります。

すると、重なっているものは、豊年の雪と新年だけではありませんで、もう一つ「歳旦立春」という要素があり、実は大伴家持が表したかったことはその点でもあるのです。

万葉集「万葉」の意味は

そもそも、万葉集の「万葉」の意味は、「葉」は世・時代の意味であり、万葉というのは、「万世」または「万代」と書きよろづよとよまれる、永代のことです。

天皇の宰(みこともち)として、自らが収める国の豊年と、統治が永遠に失われることなく続く、そのめでたさというのが、この歌の本質であり、そして、万葉集が文字通り「万葉」までも伝われという祈念が、この歌を万葉集の末尾に配置させたのです。

斎藤茂吉の評

斎藤茂吉は、ある意味「形式的な歌」としながらも、「年の初めの初春の」の「の」をもって続けた伸び伸びとした調べを指摘しています。

また「吉事」の名詞止めと、「吉事」との言葉の特異性、その声調にも注意を喚起しています。

天平宝字三年春正月一日、因幡国庁に於て、国司の大伴家持が国府の属僚群司などにに饗(あえ)したときの歌(中略)。「新しき」は「アラタシキ」である。新年に降った雪に瑞兆を託しつつ、部下と共に前途を祝福した、むしろ形式的な歌であるが、「の」を以て続けた、のびのびとした調べはこの歌にふさわしい形態をなした。

「いや重け吉事(よごと)」は益々吉事降伏が重なれよというので、名詞止にしたのもやはりおのずからなる声調であろうか。また、「吉事」という語を使ったのもこの歌のみのようである。―「万葉秀歌」斎藤茂吉著

 

ぜひおめでたい年の初めに、この歌を思い出して朗詠してみることをおすすめします。

また、ピーター・マクミランさんが、この歌の英訳を朝日新聞に掲載していますので、英語になったこの歌も併せてお読みください。

「新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事」の英訳『英語で味わう万葉集』ピーター・マクミラン




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