若山牧水

若山牧水 園田小枝子との失恋の悲しみと恋の終り『牧水の恋』俵万智

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若山牧水の恋愛の短歌を元にした俵万智さんの著書『牧水の恋』から、牧水の恋愛と失恋の短歌を読みながら、牧水の恋の終り、園田小枝子への訣別の時期の作品を追ってみます。

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若山牧水 失恋の悲しみ

前の記事に記したように、若山牧水は、結婚を考えていた女性、園田小枝子に夫と妻がいたことがわかり、驚きながらもそれを受け入れていきます。

しかし、その理解は、牧水の愛の破局を意味するものでした。

牧水の短歌は、いよいよ恋愛の歌から、失恋の色を濃くしていきます。

ひとつの愛の終焉に伴う心境の変化がつぶさに詠われていくのです。

牧水と小枝子 心の断絶

君がいふ恋のこころとわがおもふ恋のさかひの一すぢの河

あなたが言う「恋のこころ」というものと、私が思う「恋」というものとの間に、一筋の河がある。

そのことに気が付いてしまった哀れな牧水なのでした。

憫(あは)れまれあはれむといふあさましき恋の終りに近づきしかな

互いに相手を愛し合うという心境は、相手を「憐れむ」心境へと変わっていく、それが恋の終りというものなのだというな牧水の内省と洞察です。

しかし、牧水には憎むという心はなかったということが救いです。

わがこころ女え知らず彼女(かれ)が持つあさきこころはわれ掬(く)みもせず

私の心を女は知ることができず、相手の浅い心の意を汲むこともわたしはしない

牧水は引き続き、二人のこころのかけ離れていることを訴えます。

恋の回想

そしてその後の歌

白粉(おしろい)と髪のにおひをききわけむ静かなる夜のともしびの色

俵万智さんは、二人の隔絶を歌いながら、そのあとに2人の交情を歌う歌が置かれてることを強調します。

おそらくこれは牧水の回想なのでしょう。

というのはその後に、

あはれそのをみなの肌(はだへ)しらずして恋のあはれに泣きぬれし日よ

という歌があるからです。さらに遡行して、牧水はまだ、小枝子に指も触れなかった日のことを思い出しているのです。

酒飲まば女抱かば足りぬべきそのさびしさかそのさびしさか

さびしさを強調しているようで「しょせん酒を飲んだり女を抱いたりすることで埋められるような、その程度のさびしさではなかったのか」というのが、俵万智さんの解説。

「そのさびしさか」のリフレインは自問自答だと、俵さんは言います。

恋といううるはしき名にみづからを欺くことにややつかれ来ぬ

恋という麗しいことばで自分をごまかすことに、少し疲れてしまった。

牧水の方は「恋」に違いなかったが、小枝子の方は、夫と子があることを隠していたのです。

小枝子の方はそれは「恋」とはいえない。

そのうちに思いは、自分の「生」全体に及ぶのです。

恋もしき歌もうたひきよるべなきわが生命(いのち)をば欺かんとて

恋も歌も、自分の命そのものを 欺こうとしての物だった。根底にあったのは、牧水の「さびしさ」であったのでしょう。

小枝子の謝罪を待つ牧水

いつまでを待ちなばありし日のごとく胸に泣き伏し詫ぶる子を見む

詫びて来よ詫びて来よとぞむなしくも待つくるしさに男死ぬべき

二首目は単純な歌ですが、牧水のどうしようもない辛さが伝わります。

そして牧水は、恋を詠む歌の終りに、「恋の終り」を継げます。

つまり、「恋」を題材とする、歌の想念が尽きたところが、歌人にとっての 「恋の終り」であるのです。

ひとりの自由

わが恋の終りゆくころとりどりに初なつの花の咲きいでにけり

青草によこたわりゐてあめつちにひとりなるものの自由をおもふ

わが行けばわがさびしさを吸ふに似る夏のゆふべの地(つち)のなつかし

ここで、牧水は初めて「自由」という言葉を使っています。

愛の回想

きはみなき旅の途なるひとりぞとふとなつかしく思ひいたりぬ

かなしきは夜のころもに更ふるときおもひいづるがつねとなりぬる

寝巻に着替える時決まってその日とのことを思い出す、という意味の歌で、着替えの時に、というのが女性のような繊細さです。

恋愛の総括の歌

若き日をささげ尽くして嘆きしはこのありなしの恋なりしかな

秋に入る空をほたるのゆくごとくさびしや人の忘られぬかな

はじめより苦しきことに尽きたりし恋もいつしか終らむとする

五年にあまるわれらがかたらひのなかの幾日をよろこびとせむ

一日だにひとつ家にはえも住まず得忘れもせず心くさりぬ

恋の終りの後は、もっと深刻な、牧水の心情が表されています。

「忘れがたみ」のこと

わがために光ほろびしあはれなるいのちをおもふ日の来ずもがな

ほそほそと萌えいでで花ももたざりきこのひともとの名も知らぬ草

この「いのち」というのは、小枝子が妊娠をして、里子に出した子供のことで、その子は病気になったと聞かされていました。

後に養育先で死んだとの連絡があり、このことが、小枝子の思い出と相まって、牧水を生涯苦しめることとなったようです。

牧水を苦しめた恋愛、しかし、この恋愛こそが、牧水を歌人として成長浅瀬たことは間違いありません。

作品を見れば、そのことが心に刻まれることでしょう。

『牧水の恋』俵万智著について

『牧水の恋』は俵万智さんの詳しい解説が一首ずつ短歌に添えられており、牧水の恋愛の軌跡がこれも良くわかるように書かれています。

牧水の初期短歌、「恋愛」が主題の本ではありますが、それだけではない若山牧水の短歌の魅力が堪能できますので、ぜひお手にとってお読みください。

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