「星の王子さま」のapprivoiserアプリボワゼにみるサン=テグジュペリの描く人の関係  

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「星の王子さま」のapprivoiserアプリボワゼにみるサン=テグジュペリの描く人の関係

2019年7月31日

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「星の王子さま」の作者サン=テグジュペリの誕生日は、6月29日です。

サン=テグジュペリが行方不明になった日は、7月31日、どちらも、「星の王子さま」の中の数々の言葉がよみがえります。

サン=テグジュペリの『星の王子さま』の中の有名なところで、解釈が様々に取りざたされるところに、「君とapprivoiserアプリボワゼしてない」という句があります。

フランス語のアプリボワゼとはどんな意味なのでしょうか。作者サン=テグジュペリは、この語にどのような意味を込めたのか考えます。

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「星の王子さま」とサン=テグジュペリ

「星の王子さま」はフランス人の飛行士・小説家であるアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの小説です。

初版以来、200以上の国と地域の言葉に翻訳され、世界中で総販売部数1億5千万冊を超えたロングベストセラー。

童話や児童向けのようにも思われていますが、大人の読みものでもあります。

なぜなら、お話の中に命や愛、友情についての人生のだいじな問題への答えとなるような言葉がたくさんちりばめられているからです。

 

星の王子さまのapprivoiserアプリボワゼの箇所

アプリボワゼが出てくるのは、内藤濯訳だと、下の箇所です。

王子さまがキツネに「遊ぼうよ」と言うと、

キツネは

「一緒には遊べないよ。君とアプリボワゼ(apprivoiser)してないもの」

と言います。

つまり、内藤訳だと、「君とアプリボワゼしてないもの」と、そこの箇所が、フランス語の原語のまま、示されています。

王子さまは、「アプリボワゼ? それはどういう意味なの?」と聞き返すのです。

 

君と「アプリボワゼする」とは

今の翻訳だと、この語は、「飼いならす」と訳されています。

王子:「<飼いならす>って、それ、なんのことだい?」

キツネ:「よく忘れられてることだがね。<仲よくなる>っていうことさ」

 

「飼いならす」への違和感

おそらく、それは英語のtameの翻訳ではないかと思います。

とすると、今の本は英語から日本語に訳したものなのかもしれませんね

けれども、ここは登場人物の片方は狐だとしても、人と人との関係を表す箇所なので、「飼いならす=仲良くなる」はそれほどぴったりこないのです。

阿古智子東京大学教授の解説

香港中文大学の副教授周保松氏の『星の王子さまの気づき』を紹介するにあたって、阿古智子東京大学教授は

「なつける」は「飼いならす」とも訳され、主従関係を感じさせる詞だが、フランス語の原語は、登場人物の野生のキツネが人間に慣れていくという意味で用いられたのだろう」

と解説しています。

上の部分は、『星の王子さまの気づき』周保松著の解説内の言葉ですが、周香港中文大学副教授はこの箇所を

「なつける」を自分と相手を同時に尊重する相互的過程と捉える。そして、「なつける」対象は仕事や信仰・芸術の探求、社会理想の実現など、自分が本気で打ち込めるものなら何でも構わないと述べる。―「なつける」ことは政治的な過程

と解釈を進めています。

仏語に添った内藤訳

初版の内藤訳をもう少し見てみると「それは、"creer des liens"(クリエ デ リアン)ってことだよ」 と続きます。

lienはフランス語のサイトを見ればわかるけれど、「リンク集」の「リンク」に当たる言葉です。

creerは英語のcreatと同じ語源で、訳者によってさまざまなところで、「絆を結ぶ」という訳もあるらしいが、いい言葉だけれど童話なのでこれもやや違和感があるともいえます。

翻訳というのは、なかなか即置き換えがきくものばかりではないので、むずかしいところです。

さらにキツネの言葉は続く。

Tu nʹes encore pour moi quʹun petit garcon tout semblable a cent mille petits garcons. Et je nʹai pas besoin de toi. Et tu nʹas pas besoin de moi non plus. Je ne suis pour toi quʹun renard semblable a cent mille renards.

「僕にとって君はまだ他の10万の男の子と見分けがつかないし、僕には君が必要じゃないよ。けれど、君とアプリボワゼするとね、僕たちは互いに必要となるんだ。僕にとって君は世界でたったひとつのものになるんだよ」

つまり、アプリボワゼの内容は、仏語の言語を解する人にも、作中で「説明」がされているもので、その語本来の意味がどうというより、作者のサン=テグジュペリが思う人とのつながりというものなのでしょう。

 

オーシャンゼリゼ」にもあったapprivoiser

フランスに住んだことのある友人に聞いてみたら、「アプリボワゼ」は、「オーシャンゼリゼ」の歌詞の中にもあると教えてくれました。

その箇所を見たら、疑問が一挙に解決します。

Il suffisait de te parler, pour t'apprivoiser

「話すだけで十分だった あなたと親しくなるために」

この場合の「あなた」は、vous でなくて tu。

仏語はそもそも、呼び名で間柄がわかるのだが、初対面ではvousを用い、「親しくなると」tuになりますね。
日本だったら「さん」と「ちゃん」にも似ているでしょうか。

「apprivoiser」はそのままに「親しくなる」と訳すことができます。

星の王子さまでは、その「親しくなる」の内容を、互いにアプリヴォワゼすると下のようになる、とキツネが説明します。

「互いに必要となり、お互いにたった一つのもの、たった一人の人になる」

内藤あろう訳の「君とアプリボワゼしていないもの」の日本語に置き換えずに、原語そのままに載っているというのも、訳し方としてちょっとおもしろいのです。

そのおかげで訳者と共に、原語の意味、そして作者の差すところを探りながら、おのずと最後まで読むことになったのです。

 

「星の王子さま」は内藤あろう訳が気に入っています。

こちらはエッセンスをまとめた本です。




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