いのちなき砂のかなしさよさらさらと握れば指の間より落つ/石川啄木/意味と句切れ  

広告 石川啄木

いのちなき砂のかなしさよさらさらと握れば指の間より落つ/石川啄木/意味と句切れ

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「いのちなき砂のかなしさよさらさらと握れば指の間より落つ」石川啄木『一握の砂』の短歌代表作品にわかりやすい現代語訳をつけました。

歌の中の語や文法、句切れや表現技法と共に、歌の解釈・解説を一首ずつ記します。

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いのちなき砂のかなしさよ さらさらと 握れば指の間より落つ

読み:いのちなき すなのかなしさよ さらさらと にぎればゆびの あいだよりおつ

作者

石川啄木 『一握の砂』

現代語訳と意味

命を持たない砂のはかなく悲しいことよ 握ってみれば、さらさらとかすかな音を立てながら、指の間より落ちて行くのだ

語の意味と文法解説

  • いのちなき……命を持たない、生きているものではないの意味
  • 悲しさ……「悲しい」は形容詞。「悲しさ」は名詞
  • さらさらと……擬音 砂の音と手から落ちて行くときの様子をあらわす

句切れとその他表現技法

・2句切れ

・「さらさらと」は、「落つ」にかかるため、「さらさらと落つ」のように、近接するべき語だが、字数と「さらさらと」を強調するため、2句切れの後に、この語を置いている。


解説と鑑賞

明治43年作。『一握の砂』冒頭より10首目の歌。

「砂」はもともと生きているものではないが、それを「命なき」と無生物であることを強調している。

作者が悲しいと感じるのは、その砂の「命のなさ」にある。

「さらさらと」以下は、その砂のありようを示す描写で、指の間から、砂が幽かな音を立てて落ちていく。

落ちた砂は、形を成すことはない。

そのような砂を、作者は自らの生活や、文学上の挫折などの実りのなさに重ねていると思われる。

生活の貧しさが解消することはなく、さらに、文学作品が認められて有名になることもない。

その悲しさと寂しさを、砂の描写をもって表現する一首である。

 

「砂」が題材の一連

この一連は、いずれも「砂」「砂山」を題材にしている。

東海小島の磯の白砂に われ泣きぬれて蟹とたはむる

頬につたふ なみだのごはず一握のを示しし人を忘れず

いたく錆びしピストル出でぬ 砂山の砂を指もて掘りてありしに

ひと夜さに嵐来きたりて築きたる この砂山は何の墓ぞも

砂山の砂に腹這ひ初恋の いたみを遠くおもひ出いづる日

砂山の裾(そ)によこたはる流木に あたり見まはし物言ひてみる

いのちなきのかなしさよ さらさらと握れば指のあひだより落つ

しっとりと なみだを吸へるの玉なみだは重きものにしあるかな

大という字を百あまりに書き死ぬことをやめて帰り来(きた)れり

「砂」の差し示すもの

この「砂」の差し示すものは、何か。

歌集のタイトルは『一握の砂』であるが、この「一握りの砂」という矮小なものは、啄木が実は好むところではなかった「短歌」という文学形式そのもののことだと思われる。

『一握の砂』を構成する主要な歌は、一晩にして作られた100首の歌であった。

「われ泣きぬれて蟹とたはむる」の対象物は、「蟹」であるが、一晩にして、それなりにおもしろく歌を作ったこと。啄木にとっては、歌は「たわむれ」の対象であった。

「一握の砂を示しし人」というのは、実は啄木自身のことだろう。

「錆びしピストル」は、「掘り当てる」ように心の奥から探し求めた歌の題材。そもそも、「東海の小島」と歌には詠んでいても、啄木はこれらの歌を自室で作ったからである。

「ひと夜さに嵐来きたりて築きたる この砂山は何の墓ぞも」の「嵐」は歌を作るエネルギーが突如わいたことだろう。しかし、その短歌は啄木によって「墓」と形容するべきものであり、ポジティブな意味での作品ではなかったのだ。

「いのちなき」というのは、やはり啄木にとって、生命を持たない、そのような価値を持つとは思われない「短歌」という小詩型であったのだろう。

しかし、「さらさらと握れば指のあいだより落つ」は、単に、砂の無機物としてのむなしさだけではないものがある。

というのは、一晩に百首を作ったというのは、啄木もそちこちに書いているように、なかなかの自慢であったにも違いないし、それよりも、自分でも意外なことだったに違いない。

「さらさらと握れば」には、この歌を詠んでいるとき、砂浜にいたのではないにしても、「さらさらと」の擬音部分を含め、確かな実感がある。

「手」や「掌」でなくして「指の間より」という描写も細かい。

啄木にしてみれば、歌とその言葉がまるで自分の身を分けるように、無数に零れ落ちてくるような、卑下とは別な感覚があったはずである。

架空の情景を読みながら、それに作者の情動が強い印象を持たせているのには、詠われているのが、卑下や虚無だけではなく、作者自身も気が付いてはいない心情が歌に表れていると見るべきだろう。


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