藤島秀憲さんの歌集、『ミステリー』の案内が朝日新聞に掲載されていました。
第二歌集の『すずめ』の続編、作者はご結婚されたようです。作者藤島さんの生活の様子が作品から追えるものとなっています。
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藤島秀憲新歌集『ミステリー』
歌人の藤島秀憲さんが新しい歌集『ミステリー』を上梓されました。
その前の歌集も読んだので、楽しみにめくってみると、ご結婚されたことがわかりました。
君のいる町に越さんと決めてより秋の深まり早くなりたり
これからをともに生きんよこれからはこれまでよりも短けれども
お知らせがあります五月十五日今日から君を妻と詠みます
箸置きのある生活に戻りたり朝のひがりが浅漬けに差す
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就職への動き
それまで、両親の介護のために無職だった作者、「それぞれの五十五年を生きて来て今日おにぎりを半分こ、、、する 」は、結婚を機に、就職をしようと考えます。
味噌汁が俺の好みに合っている なれば勤めてみよう久しく
この「味噌汁」は、まかない食なのでしょうか。
はじめて教会へ行く歌
はじめての教会なれば名前のみカードに書きぬローマ字綴りで
足裏を汚さずわれは暮らしきて父の聖書をこの冬ひらく
告解をすべきことあるようなないようなまま教会を出づ
若き日の父の書き込み辿りつつユダの手紙を二度読みかえす
神の手を父は見たるか全身をヘルパーさんに拭われながら
亡き両親の回顧
三月のわが死者は母左折する車がわれの過ぎるのを待つ
「哀愁」をいつか誰かと観た父はわたしが死ねばもう一度死ぬ
納豆をかき混ぜながらこの低くひびける音を母も聞きしか
好きな歌は、
少年を追い白球は海に入り港にはもう弾むものなし
それと
「哀愁」をいつか誰かと観た父はわたしが死ねばもう一度死ぬ
この歌は、「三月のわが死者は母左折する車がわれの過ぎるのを待つ」と同じく、技法としての「省略」がありながらもよくわかる内容となっています。
折々のすずめ
第二歌集のタイトルにもなった、すずめも”健在”です。
七月のすずめはスリム足もとに来たるすずめにパン屑落とす
にぎやかな冬のすずめを聞きながら君と歩めりわが住む町を
自らの死
特徴的なのは、自らの死をうたったものが多いこと。
結婚という生、いわばエロスとタナトスの両極が、混在しているというのがめずらしいところです。
はるのゆきふればこごえる木々の花ふりかえりふりかえりしてわれも死を待つ
引き出せば二百枚目のティッシュかな死ぬことがまだ残されている
それにしても、55歳ですから、長寿の現在では、まだまだこれからではないでしょうか。
これからは結婚生活の歌も楽しみにしています。
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介護の体験を詠んだ第二歌集