山のあなたの空遠く「幸」住むと人のいう カール・ブッセの詩 上田敏訳  

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山のあなたの空遠く「幸」住むと人のいう カール・ブッセの詩 上田敏訳

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山のあなたの空遠く「幸」住むと人のいう―― カール・ブッセの詩、上田敏の名訳と言われている題名「山のあなた」の詩の全文と意味を現代語訳と共に解説します。

また、この詩が日本で有名になった理由、上田敏の名訳と言われる理由を考えます。

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「山のあなた」の詩の全文



「山のあなたの空遠く」の書き出しで知られる、この詩のタイトルは「山のあなた」というものです。

「山のあなた」
作者:カール・ブッセ
訳者:上田敏

山のあなたの 空遠く
「幸い」住むと 人のいう
噫(ああ)われひとと 尋(と)めゆきて
涙さしぐみ かえりきぬ
山のあなたに なお遠く
「幸い」住むと 人のいう

 

原文はドイツ語の詩

原文は文語の旧仮名遣い(いうを「いふ」と表記する)ものですが、ここではわかりやすく新仮名遣いで掲載します。

この詩は日本語に翻訳されたもので、元の原文の詩は、ドイツの詩人カール・ブッセによりドイツ語で記されています。

ドイツ語原文は下に表示します。

※上田敏のもう一つの名訳は

 

「山のあなた」現代語訳

この詩の意味はというと、

山の向こう、ずっと遠い空の彼方まで行けば
幸福があるのだと誰かが言った

ああ、私も人と一緒に行って
涙ぐんで帰ってきた

山の向こう、もっと遠い空の彼方まで行けば
幸福があるのだと誰かが言った

日本語にすると段落は3つに分けることができ、一番上の段と、下の段は、繰り返しとなっています。

詩の意味と意訳

2段目の「ああ、私も人と一緒に行って、涙ぐんで帰ってきた」の理由と結末ははっきりしていませんので、その部分は補って考える必要があります。

詩の意味は、文の通りに考えてみると「幸いが住むと人が言うので、私も誘った人と一緒に、その幸いを求めて遠くの山を訪ねて行ったけれども、涙ぐんで帰ってきたのだ」ということになりますが、もう少し補ってみることにしました。

山の遠くの彼方に行けば幸いが住むと人が言うので、大切な人と一緒に幸せを求めて出かけて行ってみたけれども、どうしても見つからず涙ぐんで帰ってきた。

ああ、求める幸いよ。もっと遠くの彼方にそれがあると人はいうのだ

 

「山のあなた」語句と解説

詩の中に使われている言葉の語句と解説です

あなた

・あなた・・・「彼方(かなた」に同じ。あちら、あちらのほう

対義語は「此方(こなた)」

噫(ああ)

・噫・・・「ああ」と読む。現代語の「ああ」に同じ。感嘆詞。

ドイツ語では「Ach」と記されている

尋(と)めゆきて

・尋(と)めゆきて・・・基本形は「尋(と)む」

「たずねもとめる。さがしもとめる」 の意味。

「ゆきて」は「行きて」 「尋めゆく」の複合動詞で「探し求めて行って」の意味

涙さしぐみ

・涙さしぐみ・・・基本形は[動マ五(四)「さしぐむ」(差し含む)

意味は、不意であること。 突然に現れること。 だしぬけ。

「涙さしぐみ」の意味は「急に涙が湧いて」

かえりきぬ

・かえりきぬ・・・帰る+来る の複合動詞

「ぬ」は完了の助動詞

「山のあなた」の解説と鑑賞

「山のあなた」は、上田敏の訳詩集『海潮音』に収められた「象徴派の詩」として紹介されたものの一つ、この詩は上田敏の名訳として知られています。

作者は、カール・ヘルマン・ブッセ  1872年生まれのドイツの新ロマン派の詩人・作家ですが、ブッセはこの訳と紹介によって、本国ドイツよりも日本で有名になったといわれています。

「山のあなた」名訳の理由は?

上田敏の訳が名訳と言われる理由は、まずは、七五調に訳されたこと。

七五調は、中原中也なども採用しており、それほど珍しいことではないのですが、短歌にも似て、調子の整った憶えやすい詩形です。

「山のあなた」の調べ 音の美しさ

もう一つはやはり「山のあなた」という言葉の調べ、つまり音の美しさです。

ア行の音とナ行の音

山の「や」、あなたの「あ」「な」「た」はいずれも、ア行の音です。

「山のあなた」この七音の中で、ア行でないものは「の」だけですが、これも、例えばサ行やカ行などと比べるとわかりますが、柔らかく障りのない音であることがわかります。

さらに「の」と「な」に関しては、どちらもナ行の音です。

訳者である上田敏が「山の彼方」とせずに「山のあなた」としたのは、この音の美しさを大切に思ったからだと思います。

ことばの響きが”意味”を持つのが詩

「あなた」は、ただ、「あちら」という、方向を指示する言葉に過ぎません。

しかし、この「山のあっちの方」という、意味としてはただそれだけの言葉が、これだけのロマン性を持つのには、この「山のあなた」の響きが大きく関係しています。

そして、この「山のあなた」が、詩のタイトルとなり、さらに冒頭に置かれます。

題名とリフレインを含めて、詩の中に3回繰り返され、一編の詩の雰囲気を決めるのは、他ならないこの言葉の響きであるです。

散文とは違い、詩文においては、言葉の意味以上に、言葉の音が、意味に加えて、言葉のイメージを作ります。

詩においては、言葉の響きが、言葉の意味と同じように大切です。

この言葉の響きそのものが「詩」であり、意味と一体となった言葉、それが散文とは違う、詩の「意味」であるのです。

「山のあなた」翻訳の背景

日本の文学と当時の詩壇は、英誌、特にヴィクトリア朝時代の古い詩に偏っていることを指摘、新しい詩を紹介するために、それまでとは違った、高踏派・象徴派と言われる詩人たちの耽美的な詩を含む作品を翻訳して紹介しました。海

潮音は、イタリア、イギリス、ドイツ、フランス等の詩人29人の訳詞をまとたもので、一部は、英訳からの翻訳でした。

上田敏が、海外の詩と、その日本への伝わりかたに目を向けたのは、一高の学生時代からだったようで、『海潮音」の翻訳時は、上田敏は32歳、東大の講師でした。

「山のあなた」ドイツ語の原文の詩

この詩の原文のドイツ語の原文の詩の全文は以下の通りです。

Über den Bergen
Karl Busse

Über den Bergen weit zu wandern

Sagen die Leute, wohnt das Glück.

Ach, und ich ging im Schwarme der andern,

kam mit verweinten Augen zurück.

Über den Bergen weti weti drüben,

Sagen die Leute, wohnt das Glück.

--wikipediaリンクより

終わりに

上田敏の訳詩には他に、ヴェルレーヌの「秋の歌」「秋の日のヴィオロンのため息の」もあります。

素晴らしい詩を翻訳してくれて、感謝したい気持ちになりますね。


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