「秋の日のヴィオロンの」ヴェルレーヌ「秋の歌」上田敏の名訳の解説  

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「秋の日のヴィオロンの」ヴェルレーヌ「秋の歌」上田敏の名訳の解説

2022年7月9日

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「秋の日のヴィオロンの」に始まる「秋の歌」は フランスの詩人ポール・ヴェルレーヌが作った詩、上田敏の訳詩「落葉」によって日本に紹介されました。

きょう7月9日の日めくり短歌は、上田敏の忌日にちなみ、ヴェルレーヌの原文の詩と上田敏の名訳の理由をご紹介します。

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「落葉」上田敏の訳

「落葉」 ポール・ヴェルレーヌ

秋の日の
ヴィオロンの
ためいきの
身にしみて
ひたぶるに
うら悲し。

鐘のおとに
胸ふたぎ
色かへて
涙ぐむ
過ぎし日の
おもひでや。

げにわれは
うらぶれて
こゝかしこ
さだめなく
とび散らふ
落葉かな。

 

上田敏の「秋の日の」で始まる訳詩のタイトルは「落葉」。この読みは「らくよう」です。

作者は、フランスの詩人ポール・ヴェルレーヌ(1844-1896)。

ランボーの友人で同世代の詩人です。

この詩は上田敏が『海潮音(かいちょうおん)』のタイトルの訳詩集で紹介し、人々に知られるようになりました。

 

「秋の歌」が原題

この詩の原題は「秋の歌 Chanson d’automne」です。

上田敏はそれを詩の最終段の言葉の『落葉』と置き換えて訳しました。

原文はこの下に提示します。

この詩の構成と特徴

原文の3段のまま、すべての行の一行が5音で、各段が6行になるように揃えられて訳されています。

詩としてのリズムが大変よく整っているのが特徴であり、その点においても名訳といえます。

 

『落葉』の意味と現代語訳

この詩の意味をあえて要約すると、秋の日、どこからか聞こえてくるバイオリンの音に悲しみを誘われ、また、空を伝って聞こえてくる鐘の音によみがえる昔の思い出にいっそう憂いと悲しみを深くする主人公の心が語られます。

題名の「落葉」は、主人公が自分のその心を「あちこちをさまよう落葉のようだ」と形容するところにあります。

『落葉』の現代語訳

現代語訳は

秋の日に聞こえてくるバイオリンのため息のような音が、身に染みてひたすらにうら悲しい。

鐘の音に胸がふさがれて顔色が曇っては涙ぐむ。過ぎし日の思い出よ。

本当に私は悲しみに沈み、あちこちに行方の定まらないまま風にさまよう落葉のようになってしまった。

詩の言葉の解説

語句と表現技法の解説を記します。

1段目 「ヴィオロンのためいき」の比喩

ヴィオロンとはバイオリンのこと。

「ヴィオロンの/ためいきの」は暗喩であり、バイオリンの音を、ため息のかすかな音に例えています。

「ひたぶるに」は、「一途に」「はなはだしく」の意味の副詞です。

2段目

「ふたがれ」は「ふさがれ」と同じ。「胸がいっぱいになる」「胸がつまる」との意味です。

「色かへて」の「色を変える」の意味は「怒り、不安、喜びなどのために顔色を変える」の成句です。

「思い出や」の「や」は、詠嘆。

3段目

「げに」は「ほんとうに」の意味の副詞で、そこまでに同調しながら続ける意味を表します。

「うらぶれて」は、「打ちひしがれて」の意味。

「ここかしこ」の「ここ」は「此処」、この場所のいみで、「かしこ」は「あちら」の意味で、現代語だと「あちこちに」です。

「かな」は文末に使われる詠嘆の終助詞で、「落葉なのであるよ」などと訳せます。

 

「秋の歌」フランス語原文

Chanson d’automne Paul Verlaine

Les sanglots longs
Des violons
De l’automne
Blessent mon coeur
D’une langueur
Monotone.

Tout suffocant
Et blême, quand
Sonne l’heure,
Je me souviens
Des jours anciens
Et je pleure;

Et je m’en vais
Au vent mauvais
Qui m’emporte
Deçà, delà,
Pareil à la
Feuille morte.

 

上田敏の名訳の理由

フランス語の原文は、各行が短い言葉となっており、たとえば1段目は試しにかな書きをすると

Les sanglots longs
Des violons
De l’automne
Blessent mon coeur
D’une langueur
Monotone.

レサングロロン
デビオロン
デロトンヌ
ブレッサンモンクール
デユンヌラングール
モノトンヌ

となり、それが「秋の日の/ヴィオロンの/ためいきの/身にしみて/ひたぶるに/うら悲し」と業を変えて訳されます。

原文の意を汲み、雰囲気を正確に伝える訳であるところが、名訳といわれる所以でしょう。

上田敏について

上田敏は東京高等師範学校教授、東大講師を務めた後、京都帝国大学文科大学の教授となり、大学で教えていたほかにも、詩人や評論家としてペンをとりました。

『海潮音(かいちょうおん)』『牧羊神』の訳詩集で当時日本ではまだあまり知られていなかったベルギー文学やプロヴァンス文学、象徴派や高踏派の詩を紹介。残念ながら41歳で病気で亡くなっています。

上田敏の名訳『山のあなた』の詩

このうち上田敏による名訳といわれる一つが『落葉』ともう一つ『山のあなた』です。

詩の原文の原語は、『落葉』はフランス語、『山のあなた』はドイツ語です。

上田敏は英語もかなりできたらしく、教えていた小泉八雲にその才能を誉められたといいます。

上はドイツ語、他にもフランス語の訳詩といずれの外国語にも堪能、また自らも詩人として、詩文としての訳にも優れています。

外国語の詩の紹介者としては、上田敏をおいて他にはなかったといえるでしょう。

きょうの日めくり短歌は、上田敏忌日にちなみヴェルレーヌの「秋の歌」上田敏訳「落葉」の解説を記しました。

それでは!

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