詩歌

中原中也の短歌「生前発表詩篇」の「初期短歌」107全首

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中原中也はダダイズムの詩人として詩作に入る前に短歌を詠んでいました。

13歳から詠み始め、15歳で友人たちと合同歌集「末黒野(すぐろの)」を刊行、30年の生涯で120首余りの作品が残っています。

中原中也の初期の短歌作品と、29歳のときの短歌をこちらにまとめます。

中原中也の「初期短歌

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中原中也の短歌は、107首が「生前発表詩篇」の「初期短歌に収録されています。

 

1  珍しき小春日和よ縁に出て爪を摘むなり味気なき我

2  籠見れば炭ただ一つ残るあり冬の夜更の心寂しも

3  友食えば嫌いなものを食いたくて食うてみるなり懶(ものう)き日曜

4  森に入る雪の細路に陽はさして今日は朝から行く人もなし

5  二本のレール遠くに消ゆる其(そ)の辺陽炎(かげろう)淋しくたちてある哉(かな)

6  森に入る春の朝日の心地よき露キラキラと光る美しさ

7  幾ら見ても変りなきに淋しき心同じ掛物身つむる心

8  大山の腰を飛びゆく二羽の鳥秋空白うして我淋しかり

9  湧く如き淋しみ覚ゆ秋の日を山に登りて口笛吹けば

10 怒りたるあとの怒よ仁丹の二三十個をカリカリと噛む

11 悲しみは消えず泣かれず痛む胸抱くが如く冬の夜道ゆく

12 小春日のいじら暖かさに土手の土もチクリチクリと凍溶(いてと)けるらし

13 命なき石の悲しさよければころがりまた止まるのみ

14 何処(いずこ)にか歌えば声の忽(たちまち)に消えてゆくなり静けき山の中

15 細き山路通りかかれるこの我をよけてひとこという爺(じい)もあり

16 枯草に寝て思うまま息をせり秋空高く山虹かりき

17 冬の夜一人いる間の淋しさよ銀の時針のいやに光るも

18 冬の朝床の中より傍の友にゆうべの夢語るなり

19 紅の落葉すざむき秋風に我が足もとをカサカサとゆく

20 晩秋の乳色空に響き入るおお口笛よ我の歌なる

21 汽車の窓幼き時に遊びたる饒津(にぎつ)神社の遠くなりゆく

22 かばかりの胸の痛みをかばかりの胸の甘味を我合せ知る

23 ヒンヒンと啼く馬のその声に晩秋の日も暮れてゆくかな

24 刈られし田に遊べる子等の号(さけ)び声淋しく聞こゆ秋深みかも

25 買物に出かける母に連れられし金沢の歳暮の懐しきかな

26 何故か今日胸に幻漂える旅せし友の目に浮びては

27 この朝を竹伐(き)りてあり百姓の霧の中のよりほんのりみゆる

28 川辺(かわのべ)の水の溜にげんごろう砂をたわむるその静けさよ

29 筆とりて手習させし我母は今は我より拙(つたな)しと云(い)う

30 冬去れよそしたら雲雀(ひばり)がなくだろう桜もさくだろう

31 冬去れよ梅が祈っているからにおまえがいては梅がこまるぞ

32 冬去れば梅のつぼみもほころびてうぐいすなきておもしろきかな

33 菓子くれと母のたもとにせがみつくその子供心にもなりてみたけれ

34 ぬす人がはいったならばきってやるとおもちゃのけんを持ちて寝につく

35 梅の木にふりかかりたるその雪をはらいてやれば喜びのみゆ

36 人にてもチッチッいえば雲雀(ひばり)かと思える春の初め頃かな

37 芸術を遊びごとだと思ってるその心こそあわれなりけれ

38 ユラユラと曇れる空を指してゆく淡き煙よどこまでゆくか

39 白き空へ黒き煙のぼりゆけば秋のその日もなお淋しかり

40 的(あて)もなく内を出でけり二町ほど行きたる時に後を眺めぬ

41 ただジっと聞いてありしがたまらざり姿勢正して我いいはじむ

42 腹たちて紙三枚をさきてみぬ四枚目からが惜しく思わる

43 見ゆるもの聞ゆるものが淋しかり歌にも詩にもなりはせざりき

44 天下の人これきけというざまをして山に登ればハモニカ吹けり

45 橇(そり)などに身の凍るまで走りてもみたかり雪の原さえみれば

46 遠ざかる港の町の灯は悲し夕の海を我が船はゆく

47 麦の香の嬉しくなりて麦笛を作りて吹けり一人ゆく路

48 人気なき古き貸屋に春の陽の細くさし入り昼静かにも

49 友ところぶれんげ田に風そよ吹きて汽車の汽笛の遠く鳴るなる

50 朝までは雨の降りしに家々のいらか乾きて風強き街

51 心にもあらざることを人にいい偽りて笑う友を哀れむ日

52 昼たちし砂塵(さじん)もじっと落付きて淡(うす)ら悲しき春の夕よ

53 地を嗅ぎてもの漁(あさ)る犬のその如く夕の公園に出でては来しが

54 夕暮の公園の池の水静か誰一人いず石落としみる

55 大河に投げんとしたるその石を二度みられずとよくみいる心

56 静かなる河のむこうに男一人一人の我と共に笑みたり

57 偉大なる自然の前の小さき人間吹くハモニカの音もなさけなし

58 限もなき空の真下の木の下に伏して胸苦し何が胸苦しきか

59 海原はきわまりもなし明日はたつこの旅の地の夕焼の空

60 砂原に大の字にねて海の上(へ)のかき曇る雲に寂漠をうったう

61 大いなる自然の前に腕組みてはむかいてみぬ何の為なるか

62 欠伸(あくび)して伸ばせし腕の瘠(や)せており寝覚悲しき初夏の朝

63 陽光の消(きえ)しばかりの夕空に煙は登る川辺にたてば

64 蚊を焼けどいきもの焼きしくさみせず悪しきくさみのせざれば淋し

65 可愛ければ擲(なぐ)るといいて我を打ちし彼の赤顏の教師忘れず

66 山近き家に過ごしし一日の黙せし故の心豊かさ

67 夏の日は偉人のごとくはでやかに今年もきしか空に大地に

68 俄(にわ)かにも雲りし夏の大空の下に木の葉は静かにゆらぐ

69 去りてゆく別府の駅の夜はさびし雨降り出でて汽笛なりけり

70 人みなを殺してみたき我が心その心我に神を示せり

71 世の中の多くの馬鹿のそしりごと忘れ得ぬ我祈るを知れり

72 我が心我のみ知る!といいしまま秋の野路に一人我泣く

73 そんなことが己の問題であるものかといいこしことの苦となる此頃

74 やわらかき陽のさして来る青空を想いて悲しすさぶ我が心

75 やせ馬の声の悲しく秋の気にひびきてかえす秋闌(た)ける頃

76 うねりうねるこの細路のかなたなる社の鳥居みえてさびしき

77 みのりたる稲穂の波に雲のかげ黒くうつりて我が心うなだる

78 この路のはてにゆくほど秋たけているごとく思う野の細き路

79 書斎よりやわらかき陽さす秋の野をただぼんやりとながめておれり

80 アルプスの頂の絵をみるごとき寂しき心我に絶えざり

81 たおれたる稲穂に秋の陽は光りおぼろあつさを眉毛に覚ゆ

82 玄関に夕刊投げし音のしぬ街道静かに夕せまる頃

83 吹雪する夕暮頃の路ゆけば農家の燈(あかり)見えずさびしも

84 一つ一つ軒の灯火(ともしび)ともりつつ雪ピッタリと止みにけるかも

85 一筋の路に添いたつ電柱の多くはみえず雪降れば寂し

86 ひねもすを鳴き疲れたる鳥一羽夕の空をひたに飛びゆく

87 冬空の夕べ飛びゆく鳥の声野に立ちきけばさびしさのわく

88 湯を出でて心たらえり何もかも落ち付きはらう心なるかも

89 さびれたる冬野の中をうねりうねる畦路(あぜみち)遠く雪おける見ゆ

90 舟人の帆を捲く音の夕空にひびき消えゆき吾(われ)内に入る

91 吹雪夜の身をきる風を吹けとごと汽車は鳴りけり旅心わく

92 出してみる幼稚園頃の手工など雪溶の日は寂しきものを

93 犀川(さいがわ)の冬の流れを清二郎も泣いてききしか僕の如くに

94 来てみれば昔の我を今にする子等もありけり夕日の運動場(母校に来て)

95 みつめたる石を拾いて投げてみる此の我が心虚を覚ゆ

96 ふるき友にあいたくなりて何がなし近くの山に走りし心!

97 静かなる春近き日の午後の池に杭の影して冷たそうなり

98 向う山に人のぼるみゆジラジラと春近き日の光まばゆくて

99 珍しき冬の晴天に凍溶(いてと)けし泥に鷄ながながとなく

100 紅くみゆるともしのつきて雪の降り静かに眠る冬の夕暮

101 出でゆきし友は帰らず冬の夜更灰ほりみれば火の一つあり

102 一段と高きとこより凡人の愛みて嗤(わら)う我が悪魔心

103 火廻りの拍子木の音に此の夜を目ざめて遠く犬吠ゆを聞く

104 暗(やみ)の中に銀色の目せる幻の少女あるごとし冬の夜目開けば

105 夜明がた霜ふみくだき道ゆけば草靴片足打ち捨てありぬ

106 小さき雲動けるが上の青空の底深くひびけ川瀬の音よ

107 猫を抱きややに久しく撫(な)でやりぬすべての自信萎びゆきし日

 

中原中也29歳の頃の作品

以下は、29歳の時の作品です。

ゆうべゆうべ我が家恋しくおもゆなり 草葉ゆすりて木枯の吹く

小田の水沈む夕陽にきららめく きららめきつつ沈みゆくなり

沈みゆく夕陽いとしも 海の果てかがやきまさり沈みゆくかも

町々は夕陽を浴びて金の色 きさらぎ二月冷たい金なり

母君よ涙のごいて見給えな われはもはやも病い癒えたり

中原中也の経歴

詩人。山口県生れ。東京外語卒。高橋新吉の影響で短歌から詩に転じた。富永太郎,小林秀雄らと交わり,フランス象徴派詩人の影響をうけ,《四季》《歴程》に参加。音律にすぐれた抒情詩を発表。1930年代半ばから詩壇に認められるが,1936年の長男の死によって精神の均衡を失し,翌年結核性脳膜炎を発病して没した。詩集《山羊の歌》《在りし日の歌》がある。―コトバンクより







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