橘曙覧の短歌代表作「独楽吟」全52首  

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橘曙覧の短歌代表作「独楽吟」全52首

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橘曙覧(たちばなあけみ)は江戸時代の歌人、「たのしみは」で始まる一連の短歌「独楽吟」が、大変良く知られています。

橘曙覧の有名な短歌代表作「独楽吟」52首をご紹介します。

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橘曙覧の短歌代表作「独楽吟」

橘曙覧は江戸時代の幕末期の国文学者で歌人です。

「たのしみは」で始まる一連の短歌「独楽吟(どくらくぎん)」はよく知られた有名なものです。

この連作は、橘曙覧の53歳ころの作品といわれています。

独楽吟の意味

「独楽吟」というのが全52首のタイトルです。

「吟」というのは「詩歌をつくる」こと。短歌では「吟詠」という言葉もありますね。

「独楽吟」、意味は「独り楽しむ歌」といえるでしょう。

独楽吟のもっとも有名な作品

52首のうち、もっともよく知られているのは

たのしみはまれに魚煮て児ら皆がうましうましといひて食ふ時

この短歌の意味は

楽しみといえば、稀にだが魚を煮て、それを子供たちみんなが『おいしい、おいしい』といいながら食べる時だ

というものです。

橘曙覧についてとこの歌の解説については、こちらの記事をご覧ください。

橘曙覧「独楽吟」たのしみはまれに魚煮て児ら皆がうましうましといひて食ふ時【日めくり短歌】

独楽吟とは

「独楽吟」は、橘曙覧の歌集「志濃夫廼舎(しのぶのや)歌集」 全六集のうち、その第三集「春明草(百六十六首)」の中に含まれる連作五十二首のことです。

すべて初句を「たのしみは」とうたいだし、結句を「時(とき)」で結ぶというのが特徴で、従来の和歌にとらわれない形式をとった連作といわれます。

「独楽吟」の内容の特徴

「独楽吟」が今の時代でも人の共感を誘う理由は、歌の内容にあります。

・身近な言葉で詠まれた日常生活

・貧しさと家族の暖かさを表現

江戸時代においては、このような自由ともいえる和歌は、珍しいものでした。

 

橘曙覧「独楽吟」全52首

以下に、独楽吟の全作品52首をご紹介します。

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たのしみは草のいほりの筵(むしろ)敷(しき)ひとりこころを静めをるとき

たのしみはすびつのもとにうち倒れゆすり起(おこ)すも知らで寝し時

たのしみは珍しき書(ふみ)人にかり始め一ひらひろげたる時

たのしみは紙をひろげてとる筆の思ひの外によくかけし時

たのしみは百日(ももか)ひねれど成らぬ歌のふとおもしろく出(いで)きぬる時

たのしみは妻子(めこ)むつまじくうちつどひ頭(かしら)ならべて物をくふ時

たのしみは物をかかせて善き値(あたい)惜(をし)みげもなく人のくれし時

たのしみは空暖(あたた)かにうち晴(はれ)し春秋の日に出でありく時

たのしみは朝おきいでて昨日まで無(なか)りし花の咲ける見る時

たのしみは心にうかぶはかなごと思ひつゞけて煙草(たばこ)すふとき

たのしみは意(こころ)にかなふ山水のあたりしづかに見てありくとき

たのしみは尋常(よのつね)ならぬ書(ふみ)に絵にうちひろげつつ見もてゆく時

たのしみは常に見なれぬ鳥の來て軒遠からぬ樹に鳴(なき)しとき

たのしみはあき米櫃に米いでき今一月はよしといふとき

たのしみは物識人(ものしりびと)に稀にあひて古(いに)しへ今を語りあふとき

たのしみは門(かど)売りありく魚買(かひ)て煮(に)る鍋の香を鼻に嗅ぐ時

たのしみはまれに魚煮て兒等(こら)皆がうましうましといひて食ふ時

たのしみはそゞろ読(よみ)ゆく書(ふみ)の中に我とひとしき人をみし時

たのしみは雪ふるよさり酒の糟あぶりて食(くひ)て火にあたる時

たのしみは書よみ倦(うめ)るをりしもあれ声知る人の門たたく時

たのしみは世に解(とき)がたくする書の心をひとりさとり得し時

たのしみは錢なくなりてわびをるに人の來(きた)りて錢くれし時

たのしみは炭さしすてゝおきし火の紅(あか)くなりきて湯の煮(にゆ)る時

たのしみは心をおかぬ友どちと笑ひかたりて腹をよるとき

たのしみは昼寝せしまに庭ぬらしふりたる雨をさめてしる時

たのしみは昼寝目ざむる枕べにことことと湯の煮(にえ)てある時

たのしみは湯わかしわかし埋火(うづみび)を中にさし置(おき)て人とかたる時

たのしみはとぼしきままに人集め酒飲め物を食へといふ時

たのしみは客人(まらうど)えたる折しもあれ瓢(ひさご)に酒のありあへる時

たのしみは家内(やうち)五人(いつたり)五たりが風だにひかでありあへる時

たのしみは機(はた)おりたてゝ新しきころもを縫(ぬひ)て妻が着する時

たのしみは三人の子どもすくすくと大きくなれる姿みる時

たのしみは人も訪ひこず事もなく心をいれて書(ふみ)を見る時

たのしみは明日物くるといふ占(うら)を咲くともし火の花にみる時

たのしみはたのむをよびて門(かど)あけて物もて來つる使(つかひ)えし時

たのしみは木芽(きのめ)煮(にや)して大きなる饅頭(まんぢゆう)を一つほゝばりしとき

たのしみはつねに好める焼豆腐うまく煮(に)たてゝ食(くは)せけるとき

たのしみは小豆の飯の冷(ひえ)たるを茶漬(ちやづけ)てふ物になしてくふ時

たのしみはいやなる人の來たりしが長くもをらでかへりけるとき

たのしみは田づらに行(ゆき)しわらは等が耒(すき)鍬(くは)とりて歸りくる時

たのしみは衾(ふすま)かづきて物がたりいひをるうちに寝入(ねいり)たるとき

たのしみはわらは墨するかたはらに筆の運びを思ひをる時

たのしみは好き筆をえて先(まづ)水にひたしねぶりて試(こころみ)るとき

たのしみは庭にうゑたる春秋の花のさかりにあへる時々

たのしみはほしかりし物銭ぶくろうちかたぶけてかひえたるとき

たのしみは神の御國の民として神の教(をしへ)をふかくおもふとき

たのしみは戎夷(えみし)よろこぶ世の中に皇国(みくに)忘れぬ人を見るとき

たのしみは鈴屋大人(すすのやうし)の後(のち)に生れその御諭(みさとし)をうくる思ふ時

たのしみは数ある書(ふみ)を辛くしてうつしおえつつとぢて見るとき

たのしみは野寺山里日をくらしやどれといはれやどりけるとき

たのしみは野山のさとに人遇(あひ)て我を見しりてあるじするとき

たのしみはふと見てほしくおもふ物辛くはかりて手にいれしとき

(『橘曙覧歌集』より。一部、仮名と旧漢字は読みやすく修正)

独楽吟のまとめ

現代でも親しみを持って詠める江戸時代の和歌「独楽吟」は、当時としては独創的な思いつきがあり、珍しいものだったのですね。

それにしても、生活の中でこんなにもたくさんの楽しみを見出していたことに感心します。

皆さんもぜひ、「楽しみは」に始まる歌を作ってみてください。

歌ができるというだけではなく、これまでは見過ごしていたような新しい楽しみが見つかると思いますよ。




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