川田順「老いらくの恋」の短歌【日めくり短歌】  

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川田順「老いらくの恋」の短歌【日めくり短歌】

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川田順は「老いらくの恋」のエピソードで知られる歌人、テレビドラマや映画にもなりました。

きょうの日めくり短歌は、川田順の老いらくの恋の行方と短歌についてご紹介します。

川田順「老いらくの恋」

きょう1月22日は、歌人川田順の亡くなった日、忌日です。

川田順と言えば、「老いらくの恋」とその作品が良く知られています。「老いらくの恋」というのは、60歳を超えて激しい恋情を覚えた川田自らが、記したことばです。

その後、川田は俊子との別れの失意から、自殺を図ったのでことが公となり、マスメディアが「老いらくの恋」の見出しで、二人の恋の顛末を報道したものです。

最後には川田は俊子と結婚するに至るのですが、2人のたどった道筋を短歌と共に追ってみましょう。

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川田順と俊子の出会い

樫の実のひとり者にて終らむと思へるときに君あらはれぬ

―川田順 歌集『東帰』より

川田順は前妻を病気で亡くしたのち、短歌を指導する教え子、旧姓鈴鹿俊子に出会います。

「樫の実のひとり者」とは万葉集の長歌にある言葉で、川田が65歳の時です。

一方、俊子は3児の母である人妻でしたが、二人の心は徐々に接近します。

別れ来てはやも逢ひたくなりにけり東山より月出でしかば

板橋をあまた架けたる小川にて君が家へは五つ目の橋

川田は度々俊子を家にまで訪ねて行き、また一緒にたびたび外に出かけるようになります。

 

関係の深まりと周囲の反対

吾が髪の白きに恥づるいとまなし溺るるばかり愛しきものを

60代半ばの順は、老いを自覚しながらも、俊子への愛情は揺るぎのないものとなっていきます。

 

夏山の夜の青さに見惚れをりそのふもとには君が家あり

夏至の朝早く来しかばすがすがし門のべにして君が草引く

山羊小舎に乳飲みに君を率てゆかむ明日を楽しみ今宵わが寝る

しかし、このような関係が俊子の夫に知られないはずはありません。

「橋の上に夜深き月に照らされて二人居りしかば事あらはれき」に関係の露呈が記され、周囲もこぞって反対を述べます。

 

押し黙りわれは坐りぬこの恋を遂ぐるつもりかと友の驚く

いもうとのふみ取り出でて今宵も見つ君に逢ふなと書きてあるはや

 

そんな中で、二人はとうとう師弟関係を超えて結ばれるのです。

相触れて帰りきたりし日のまひる天の怒りの春雷ふるふ

つひにわれ生き難きかもいかさまに生きむとしても生き難きかも

 

自殺未遂後に結婚

俊子は家を出てしまい、強い自責の念に駆られた川田は、自殺を図りますが一命をとりとめます。

これの世に再び生きてはじめての外出の道の冬の夜の月

たまきはる命うれしもこれの世に再び生きて君が声を聴く

そして、二人は、とうとう恋愛の志を遂げて、結婚をします。

順が68歳、俊子が41歳の時です。

人目を避けた「掬泉居」での暮らし

同時に、神奈川県足柄下郡国府津町というところに住まいを移すのですが、結婚後の生活は大変なものでした。

俊子の夫は京都大学の教授、川田の方は、住友常務理事というそれまでの生活を捨てて、田舎住まいとなったからです。

庭さきに七厘すゑて炊する妻のすがたも目馴れ来にけり

わが側に坐れる妻は鍋墨の付きしその手をかくすことなく

事無しに生きむと願ふここにさへ世の人言はなほも追ひ来る

雨のふるさ夜中にしてさめをれば相模の国の片田舎なる

わが夢はうつつとなりてさびしかり田居のすみかに枕を並ぶ

 

しかし、この知人が提供をした離れに二人の送る生活も、次第に下のような静まりを見せます。

わが門の山井の清水あふるるを見らくゆたけし出で入りごとに

夜をふかみ遠き蛙のこゑきこゆさらに遠くに浪の音あり

さしのぞくわが顔ひとつ映りゐて冬の山の井に生けるものなし

虫の音はみな亡びたる霜夜にて天つ空ゆく雁の声あり

郵便を出しにゆきたる時の間にかへりは暮れて刈田夕靄

これらの歌は、それまでの川田の作風とも違って、写実派の手法寄りとなっています。

窪田空穂や石榑千亦の影響があげられるところです。

 

他に特記すべきことは、川田順は、漢文学者川田剛(たけし)の庶子、つまり側室の子どもとして生まれたということです。

その後、住友常務理事まで務めたのですが、その上の総理にもなれるのを待たずに職を辞し、短歌に専念するという特異な経歴を持っています。

婚外恋愛という特異な背景を持つために、興味が限定されがちですが、一連の歌は、恋情がベースに会っても揺るぎのない確かな作品です。

これらの歌は、歌集「東帰」に収録されています。

以上、きょうの日めくり短歌は、川田順の命日にちなみ、川田順の「東帰」よりご紹介しました。

それではまた!

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