魂合はば相寝むものを小山田の鹿猪田禁る如母し守らすも
令和の元号の考案者と言われる国文学者、中西進氏が対談中にあげた、万葉集の相聞、恋の歌2首をご紹介します。
朝日新聞「語る」の欄で先生が自ら取り上げて解説をしている短歌です。
「令和」考案の中西進氏
中西進先生は、元号令和の考案者とされています。
元号令和を決めるにあたって一躍有名になりましたが、国文学者万葉集の研究がご専門です。
朝日新聞の「語る」で連載
その中に中西進先生がご自身の人生のこれまでを朝日新聞の「語る」のコーナーで、談話による連載が続いています。
今回は、その11回目。ご自身の結婚に際して、万葉集の相聞の短歌として先生が自ら取り上げて解説をしている万葉集の短歌が以下の2首です。
魂合はば相寝むものを小山田の鹿猪田禁(ししだも)る如(ごと)母し守(も)らすも
淡海の海沈(しづ)く白玉知らずして恋ひせしよりは今こそまされ
一つずつ読んでいきます。
魂合はば相寝むものを小山田の鹿猪田禁る如母し守らすも
読み:たまあわば あいねんものを おやまだの ししだもるごと ははしもらすも
作者と出典:
作者未詳 万葉集巻12-
歌の意味
魂が合えば共寝をしようものを。小山田の鹿猪に荒らされる田を守るように母は監視なさるよ
一首目は「共寝」とそこに至る過程を詠うもの。
中西先生は、初句の「魂が合えば」を大切な言葉だとして解説しています。
万葉人の恋愛とは恋う、魂を乞うことです。相手の魂に「こっちにおいで」と呼びかけるんですね。そうして二人の魂が合うと共寝をするのです。
「魂合はば」の意味
「魂合ふ」(たまあふ)はこれで一つの動詞で、「心が通じ合う。魂が結ばれる」ということ。
万葉集には他にも、「たまあはば君来(き)ますやと我(わ)が嘆く八尺(やさか)の嘆き」(3276)に始まる長歌があります。
もう一首が
淡海の海沈く白玉知らずして恋ひせしよりは今こそまされ
こちらの意味は、「淡海の海底に沈む白玉のように知らず、契りを交わさず恋した時より、共寝をした今こそ恋しさは増すことだ」
淡海とは、琵琶湖のこと。
遠くから姿を眺めているような状態での恋愛、「湖の底の白玉のように知らない」時は、恋しいには恋しいけれども今ほどではなかった。実際にその肌に触れた今の方がそれよりも恋情が強まったという、内省的な歌です。
「交合は知りゐたれどもかくばかり恋しきはしらずと魚玄機言へり」の上田三四二の歌も思い出します。
万葉の時代の心の距離感
特に、魂合うの「心が通じ合う」というのは、今でいう以心伝心というよりも、愛し合う者たちの主他の差のない、心の同化に近いニュアンスが感じられるのです。
恋愛は、今の時代にも勿論変わりませんが、「魂合う」と「共寝」の人と人との距離感は、万葉集の時代には、今よりももっと密接であったようにも思えるのです。
きょうの日めくり短歌は、朝日新聞の「語る」連載より、中西進先生の解説する万葉集の短歌2首をご紹介しました。
それではまた!
・ブログに更新をしない日でも、ツイッター@marutankaで「日めくり短歌」をツイートしていますのでフォローの上ご覧ください。
・日めくり短歌一覧はこちらから→日めくり短歌