東風吹かば匂ひをこせよ梅の花主なしとて春を忘るな 菅原道真の代表作短歌として知られる作品の現代語訳と句切れ、文法や修辞の解説です。
2月25日の道真忌にちなみ、菅原道真の短歌をご紹介します。
東風吹かば匂ひをこせよ梅の花主なしとて春を忘るな
読み:こちふかば においおこせよ うめのはな あるじなしとて はるをわするな
作者と出典
菅原道真 『大鏡』『拾遺和歌集』
現代語訳
東の風が吹いたならば、その香りを送っておくれ、梅の花よ。主人がいないからといって、春を忘れるなよ
この歌の二つのバージョン
この歌にはふたつのバージョンがあります。
『拾遺和歌集』巻第十六
東風吹かばにほひをこせよ梅花主なしとて春を忘るな
『大鏡』
東風ふかばにほひをこせよ梅の花あるじなしとて春なわすれそ
現代語訳は、拾遺和歌集が「忘れるな」。大鏡がもうすこし柔らかい言い方で「忘れてくれるなよ」となります。
語句の解説
一首の言葉の解説です
東風
東風…読みは「こち」。東からの風。春に吹くとされる
吹かば
吹かば… 「ふく」の未然形+接続助詞
順接仮定条件の用法(未然形 +「ば(接続助詞)」) 仮に想定した条件に対して、予想される結果を導く表現。 現代語訳は「もし~ならば」
をこせよ
をこせよ…基本形「起こす」の命令形 +終助詞「よ」
「をこす」は「遣す(おこす)」のこと。意味は「こちらへ送ってくる、よこす」
とて
とて…引用を表す。「といって」の意味。
「主」は道真自身
忘るな
「忘れるな」の意味の文語。
「忘る」が基本形。「な」は禁止を表す終助詞
解説
菅原道真の代表作として、知られている短歌。
拾遺和歌集の詞書には、
「右大臣であった菅原道真が、太宰の権の帥府に任命され、太宰府へと左遷されなさったとき、家の梅の花をご覧になって詠んだ歌」
と記されています。
左遷で九州の太宰府に送られることになった理由は、無実の罪を着せられたためとも言われています。
その際、道真が、家に残す梅の花に、「自分がいなくても春になったら咲くように」、また、その「梅の香りを自分のいる九州まで送ってくれよ」と言い残した歌です。
菅原道真の左遷
この左遷については、道真に反感を持つ者が結託し、「謀反を起こそうとした」と訴え、大宰員外帥に左遷されたものです。
左遷というよりも、流刑という厳しい罰でした。
菅原道真の心情
ここに至るまでの道真の心情は、つぶさに歌に表されています。
流れゆく我は水屑となり果てぬ 君しがらみとなりてとどめよ
流罪を言い渡されたときに醍醐上皇に送った歌。
醍醐上皇が止めてくれたのなら、流罪を免れるかもしれないという内容で、醍醐上皇は、止めさせようと宮中に駆けつけましたが、藤原氏に止められて果たせませんでした。
君が住む宿の梢をゆくゆくを 隠るるまでも返り見しはや
こちらは太宰府で詠まれた短歌。「君」は妻のことで、妻に送った歌です。
意味は、「ここまで来る途中で、妻の住む我が家の木の梢が見えなくなるまで、何度も振り返ってみた」というもの。
流された悲しさ、妻との別れの悲しみをうたっています。
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