山中智恵子の短歌代表作「現代の巫女」の幻想性  

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山中智恵子の短歌代表作「現代の巫女」の幻想性

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山中智恵子は現代短歌の歌人でその作風から「現代の巫女」とも呼ばれました。

きょう3月9日の日めくり短歌は、山中智恵子の忌日にちなみ、山中の短歌の代表作をご紹介します。

山中智恵子の短歌

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山中智恵子は女流における前衛短歌の代表的存在である歌人です。

前川佐美雄に師事、塚本邦雄らと共に活躍、その作風から「現代の巫女」と称されました。

前衛とはいっても、斎宮の研究などを通して古典に膾炙した幻想的な作風が特徴です。

山中智恵子の短歌代表作

山中智恵子の短歌は、一度読んだら忘れられない次のような作品があげられます。

いずれもよく引用される山中智恵子の代表作です。

さくらばな陽に泡立つを目守(まも)りゐるこの冥き遊星に人と生れて

読み:さくらばな ひにあわだつを まもりいる このくらきゆうせいに ひととうまれて

作者と出典

山中智恵子 歌集『みずかありなむ』

解説

満開の桜を「陽に泡立つ」と表現。

「目守る」は3文字で「まもる」と読む古語です。

この短歌の特徴は、そのスケールの大きさです。

「陽に泡立つ」の独特な修辞、「この冥き遊星に人と生れて」は、古典短歌の「うつせみ」の概念を思い出させます。

もう一首、代表作といえる有名な短歌が下の歌です。

 

行きて負ふかなしみぞここ鳥髪に雪降るさらば明日も降りなむ

読み:いきておう かなしみぞここ とりかみに ゆきふるさらば あすもふりなん

作者と出典

山中智恵子 歌集『みずかありなむ』

解説

「鳥髪」は出雲の国、船通山の古名。

神話ではスサノオノミコトが天上から追放され、初めて降り立った土地だとされている、歴史のある実在の地名です。

その鳥髪の地が、ある意味スサノオのこの世に現れた最初の場所が、すべての悲しみの起点であるということが作者のとらえ方です。

「さらば」は「それならば」の意味。

歌の意味は「そこに雪が降っている。明日も降るだろう、この悲しみが尽きないように」。

 

青空の井戸よわが汲む夕あかり行く方を思へただ思へとや

あおぞらの いどよわがくむ ゆうあかり いくかたをおもえ ただおもえとや

作者と出典:

山中智恵子 歌集『紡錘』

解説

井戸は地面とその底にあるもの。

初句「青空の井戸」はその位置が逆転しています。

そこに汲むべき水は、「夕あかり」に置き換えられています。

幻想的な風景のあとに、自分の生のこれからが思われるというのです。

 

わが生みて渡れる鳥と思ふまで昼澄みゆきぬ訪ひがたきかも

わがうみて わたれるとりと おもうまで ひるすみゆきぬ といがたきかも

作者と出典:

山中智恵子 歌集『みずかありなむ』

解説

作者は、結婚はしましたが生涯子どもは持ちませんでした。

その事情と推測は『近代短歌の範型』(大辻隆弘著) に記されていますが、要は、仲の良かったにもかかわらず夫との間に性的交渉がなかったと思われる節があります。

それは良くも悪くも歌人としての生涯を方向づけたことなのでしょう。

空を飛ぶ「鳥」に「わが生みて」という幻想はそこに根差しています。

この歌の意味は良くはわかりません。「訪れがたきかも」の目的語は人でしょうが、その人には会わない代わりに、自分の分身であるかのような鳥が、代償的に澄み渡る空を飛んでいくのを作者は見送るのです。

この鳥はいわば、作者の思いを馳せることのアレゴリーなのでしょうが、実景と思わせるまでに美しく描かれている、短歌ならでは”景色”なのです。

 

同じ鳥を主題にした歌は他もいずれも美しい歌です。

とどろける夕映の底に鳥らを鎮めたしかならざる手をひとに措く

囀りはあかるき挫折 思ひより遠くひろがる鳥の浮彫(レリーフ)

 

黄金のひかりのなかにクリムトの口吻ふ男ぬばたまの髪

おうごんの ひかりのなかに くりむとの くちすうおとこ ぬばたまのかみ

作者と出典:

山中智恵子 歌集『夢之記』

解説

クリムトの有名な絵画を現した歌。

元々の絵以上に、この歌に描かれた情景の方がが耽美的ではないでしょうか。

絵画を詠んで、本作を超えるというのは、なかなか難しいですがこの作品は見事にそれを成し遂げています。

 

山中智恵子の昭和天皇の歌

山中の天皇制を詠んだ歌もよく話題となります。

青人草(あをひとぐさ)あまた殺してしづまりし天皇制の終を視なむ

昭和天皇雨師(うし)としてはふりひえびえとわがうちの天皇制ほろびたり

天皇制の無化ののちわが死なむかな国栖奏(くずそう)の邑過ぎて思ほゆ

-歌集『夢之記』より

 

昭和天皇崩御に際して詠まれた連作「雨師すなはち帝王にささぐる誄歌」十六首とともに『夢之記』(1992年)に収録された作品で、当時は様々に取り上げられたようです。

「あおひとぐさ」は、人民、国民のこと。

「雨師」というのは、雨をつかさどる神で、現代ではなく古代の王としての、天体の運行を握る神のイメージなのでしょう。

 

山中智恵子について

山中 智恵子(やまなか ちえこ、1925年5月4日 - 2006年3月9日)

愛知県名古屋市出身。21歳のとき「日本歌人」に入会し、前川佐美雄 に師事。深い古典教養と幻想性を混交させた作風から「現代の巫女」とも評された。女流における前衛歌人の代表的存在である。斎宮の研究でも知られる。
-出典:フリー百科事典wikipedia「山中智恵子」より

山中智恵子の歌集

代表的な歌集としては『紡錘』1963年 『みずかありなむ』1968年 他に、1977年 『山中智恵子歌集』 国文社・現代歌人文庫 があります。

現在アマゾンで手に入りやすいのが下の本です。

きょうの日めくり短歌は、山中智恵子の忌日にちなみ、山中智恵子の短歌代表作をご紹介しました。

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