近江の海夕波千鳥汝が鳴けば心もしのに古思ほゆ 柿本人麻呂  

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近江の海夕波千鳥汝が鳴けば心もしのに古思ほゆ 柿本人麻呂

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近江の海夕波千鳥汝が鳴けば心もしのに古思ほゆ 柿本人麻呂作の万葉集の和歌の代表作品の、現代語訳、句切れや語句、品詞分解を解説、鑑賞します。

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近江の海夕波千鳥汝が鳴けば心もしのに古思ほゆ

読み:おうみのうみ ゆうなみちどり ながなけば こころもしのに いにしえおもおゆ

作者と出典

柿本人麻呂 万葉集3-266

現代語訳

近江の湖の夕暮れに 波打ち際で餌をついばむ千鳥よ、こころがしなうほどに昔のことが思われる

語句と文法の解説

  • 近江の海…琵琶湖
  • 千鳥…夕方寄せる波の上を飛ぶ千鳥。千鳥はたくさんの鳥。色々な鳥
  • 汝…千鳥に呼びかける代名詞
  • しのに…草木のしおれなびくさまから、心のしおれるさまなどを表わす語。 しおれなびいて。 しおれて。
  • 古…かなたに過ぎ去ってしまった昔

句切れと修辞について

  • 2句切れ
  • 擬人法




解説と鑑賞

柿本人麻呂の秀歌の一首。

「近江の海」の現在と昔の共通性

近江の海は琵琶湖のことで、そこに鳴く鳥の声から喚起される、昔の美しい都を回想する際の心情を述べる歌。

「近江の海」は昔も今も変わらない姿でそこにあり、古と今との両方にまたがるものとして置かれている。

「古」というのは、近江の都が栄えていた頃のことで、今の荒れ果てた都と対照し、過ぎた昔を懐かしむというのが歌の主題である。

「心もしのに」の回顧

「心もしのに」は、ただなつかしいというのでなく、荒れ果てた都に胸を痛めたと同時のさびしくも悲しい回想だろう。

「夕波千鳥」で、夕べの時間の暗示と波の揺らぎ、その上を飛ぶ鳥の姿を表す。

続く「汝が鳴けば」で千鳥の姿を長く読み手にとどめて、聴覚的な声で、鳥のイメージを広げている。

その眺めに面し、同時に古の記憶に対峙する作者の姿が浮かび上がってくる。

斎藤茂吉の評

「夕浪千鳥」は、夕べの浪の上に立ちさわぐ千鳥、湖上の低い空に群れ啼いている千鳥で、古代造語法の一つである。一首の意は、淡海の湖に、その湖の夕ぐれの浪に、千鳥が群れ啼いている。千鳥等よ、お前等の啼く声を聞けば、真しんから心が萎しおれて、昔の都の栄華のさまを偲ばれてならない、というのである。
この歌は、前の宇治河の歌よりも、もっと曲折のある調べで、その中に、「千鳥汝が鳴けば」という句があるために、調べが曲折すると共に沈厚なものにもなっている。また独詠的な歌が、相手を想像する対詠的歌の傾向を帯びて来たが、これは、「志賀の辛崎幸さきくあれど」とつまりは同じ傾向となるから、ひょっとしたら、巻一の歌と同時の頃の作かも知れない。--『万葉秀歌』斎藤茂吉著 より

柿本人麻呂の万葉集の和歌代表作一覧

柿本人麻呂の経歴

飛鳥時代の歌人。生没年未詳。7世紀後半、持統天皇・文武天皇の両天皇に仕え、官位は低かったが宮廷詩人として活躍したと考えられる。日並皇子、高市皇子の舎人(とねり)ともいう。

「万葉集」に長歌16,短歌63首のほか「人麻呂歌集に出づ」として約370首の歌があるが、人麻呂作ではないものが含まれているものもある。長歌、短歌いずれにもすぐれた歌人として、紀貫之も古今集の仮名序にも取り上げられている。古来歌聖として仰がれている。

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