あしひきの山川の瀬の響るなへに弓月が嶽に雲立ち渡る 柿本人麻呂  

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あしひきの山川の瀬の響るなへに弓月が嶽に雲立ち渡る 柿本人麻呂

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あしひきの山川の瀬の響るなへに弓月が嶽に雲立ち渡る 柿本人麻呂作の万葉集の和歌の代表作品の、現代語訳、句切れや語句、品詞分解を解説、鑑賞します。

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あしひきの山川の瀬の響るなへに弓月が嶽に雲立ち渡る

読み:あしひきの やまかわのせの なるなえに ゆづきがたけに くもたちわたる

作者と出典

柿本人麻呂 万葉集 7-1088

現代語訳

山川の早瀬に波音が高くなるにつれて、弓月が岳には次々と雲が立ち昇っている

語句と文法の解説

  • あしひきの…山にかかる枕詞
  • 瀬…川などの流れの事
  • なへ…読みは「なえ」。「あたりに」の意味
  • 弓月が岳…三輪山の東北に連なる、巻向山の最高峰(五六七メートル)

句切れと修辞について

  • 句切れなし
  • 枕詞




解説と鑑賞

柿本人麻呂作。

瀬というのは痛足川(あなしがわ)というところで、弓月が岳は巻向山の頂上の一角で神聖な場所であった。

この歌の前には、「痛足川川波立ちぬ巻向(まきむく)の弓月が岳に雲居立てるらし」があり、「川波立ちぬ」で波の様相が視覚的にとらえられているのに対して、この歌は「鳴るなへに」で、川音の方にポイントが移して始められ、前の歌とのつながりで、視覚と聴覚との両方で多角的に風景が捉えられていることがわかる。

下句は、再び視覚的に、川から上の方に視点が伸びることになり、風景に縦の距離感が出されることによって、雄大な山の様子が描かれる。

島木赤彦はこの歌をで取り上げて、

「これらの歌、皆、一心の集中が深い沈潜となり、それがおのづからにして人生の寂寥相幽遠相に入っている」(「万葉集諸相」)

と評している。

他にも

風神霊動の概ががあり、一首の風韻自ら天地悠久の心に合するを覚えしめる『万葉集の巻章及び批評』

とこの歌を高く評価している。

さらには、自然詠としてだけではなく、弓月が岳を神聖な地として、その聖域をほめた讃えた歌という説もある。

斎藤茂吉の評

一首の意は、近くの痛足川に水嵩みずかさが増して瀬の音が高く聞こえている。すると、向うの巻向まきむくの由槻ゆつきが岳たけに雲が湧わいて盛に動いている、というので、二つの天然現象を「なべに」で結んでいる。

この歌もなかなか大きな歌だが、天然現象が、そういう荒々しい強い相として現出しているのを、その儘さながらに表現したのが、写生の極致ともいうべき優すぐれた歌を成就したのである。―『万葉秀歌』

また、柿本人麻呂の研究を進めた斎藤茂吉は、技術上の分析として、

上の句で、「の」音を続けて、連続的・流動的に云いくだして来て、下の句で「ユツキガタケニ」と屈折せしめ、結句を四三調で止めて居る。ことに「ワタル」という音で止めて居るが、そういうところにいろいろ留意しつつ味うと、作歌稽古上にも有益を覚えるのである。

上記を詳細に指摘しており、人麻呂作でも評価の高い歌となっている。

柿本人麻呂の万葉集の和歌代表作一覧

柿本人麻呂の経歴

飛鳥時代の歌人。生没年未詳。7世紀後半、持統天皇・文武天皇の両天皇に仕え、官位は低かったが宮廷詩人として活躍したと考えられる。日並皇子、高市皇子の舎人(とねり)ともいう。

「万葉集」に長歌16,短歌63首のほか「人麻呂歌集に出づ」として約370首の歌があるが、人麻呂作ではないものが含まれているものもある。長歌、短歌いずれにもすぐれた歌人として、紀貫之も古今集の仮名序にも取り上げられている。古来歌聖として仰がれている。

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