おなし枝に鳴きつつをりしほととぎす声は変らぬものと知らずや
「和泉式部日記」、平安時代の女流歌人の和泉式部が記したといわれる作品の「夢よりもはかなき世の中に」の部分の和歌の現代語訳と解説を記します。
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読み:おなじえに なきつつおりし ほととぎす こえはかわらぬ ものとしらずや
作者と出典
『和泉式部日記』
歌の作者:帥宮
歌の現代語訳と意味
私、帥宮と亡くなった兄とは同じ枝に鳴いていたホトトギスのようなものです。
声は変わらない、同じものであると、お知りではないのでしょうか。
語と文法
- 枝…読みは「え」
「鳴きつつをりし」の品詞分解
- 鳴きつつ…「つつ」は反復を表す助動詞
- をりし…「をり」はラ変動詞「居り」の連用形+「し」過去の助動詞「き」の連用形
「知らずや」の文法解説
- ず…打消を表わす助動詞「ず」の終止形
- や…疑問の終助詞
歌の解説
「女」こと和泉式部の返答の一首目「薫る香によそふるよりはほととぎす聞かばやおなし声やしたると」に対する、帥宮の最初の歌。
まず、帥宮が橘の花を贈り、女が「薫る香に」で返答。
この歌の解説を先に読む
薫る香によそふるよりはほととぎす聞かばやおなし声やしたると
「薫る香に」の意味は、花橘の表す「昔の人」、すなわち亡くなった女の元恋人である帥宮の兄のことよりも、送り手である帥宮の「あなたの声が同じ声かどうかを聞きたい」というもの。
女の「おなし声やしたると」に対しての答えの歌なので、初句の「おなし」を復唱し、「同じ枝に」と始めています。
そして、「声は変わらぬ」で、さらに、女の問いの「おなじ」を肯定した形になります。
「ほととぎす」の声になぞらえる
この声は、歌の中では「ほととぎす」の声となっていますが、もちろん、鳥の声が問題なのではありません。
なので、その声が同じかどうかも、それもどうでもよろしいのですが、とにかく、贈答の歌なので、話をつなげていく中で、何とか、帥宮が、相手の気を引こうとしているところが、歌の目的です。
女「同じか聞きたい」→男「ええ同じですよ」
というのが、相手の意を汲んでいるという、肯定のしるしであり、恋愛感情の表明です。
しかし、帥宮はこれだけのことを言うのにも、
「かかること、ゆめ人に言ふな。すきがましきやうなり。」
現代語訳(「このようなことを、決して人に言ってはならないよ。色好みのようだから」
と使いの舎人に口止めをしています。
「知らずや」
「知らずや」の「や」は、疑問の終助詞ですが、「知らないのでしょうかね」という、相手への問いかけです。
なので、この歌の後には、女は返答の歌を送ってこないので、帥宮は、ひどく落胆することとなり、またその落胆の気持ちを新しい歌に詠んで送るというあらすじになっています。
「おなし枝に」の背景とあらすじ
「夢よりもはかなき世の中を」の冒頭は
(原文)夢よりもはかなき世の中を、嘆きわびつつ明かし暮すほどに、四月十余日にもなりぬれば、木の下暗がりもてゆく。
(現代語訳)夢よりもはかない世の中を、嘆きながら暮らしているうちに4月10日も過ぎることとなり、木下も茂る葉陰で、暗く見えるようになった。
というものではじまり、こうして、4月の青葉を眺めている所に、帥宮の使いが橘の花をもってやってくるところから、二人のやりとりが始まります。
橘の花の返事に和泉式部と思われる「女」が、使いの者に歌の手紙を渡します。
それが一首目「薫る香によそふるよりはほととぎす聞かばやおなし声やしたると」。
次に、男性である帥宮がこれに、初めて和歌を送るのが、下の歌です。「夢よりもはかなき世の中」全体の2首目の歌となります。
「和泉式部日記」について
和泉式部日記は、平安時代中期の女流歌人、和泉式部(いずみしきぶ)が記した作品です。
内容は、1003年(長保5)4月から翌1004年1月にかけて、和泉式部と帥宮敦道(そちのみやあつみち)親王との恋愛の経緯を、歌物語風につづったもの。
重要なのは、その中に含まれる147首もの和歌作品です。優れた歌人である和泉式部のその贈答歌のやりとりで二人の心情を浮き立たせるものとなっています。
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