教科書の短歌

おねがいねって渡されているこの鍵をわたしは失くしてしまう気がする 東直子 感想と鑑賞

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おねがいねって渡されているこの鍵をわたしは失くしてしまう気がする 東直子の教材掲載の有名な短歌代表作品の状況を想像、鑑賞と感想を記します。

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おねがいねって渡されているこの鍵をわたしは失くしてしまう気がする

読み:おねがいねって わたされている このかぎを わたしはなくして しまうきがする

現代語訳

歌の通りの現代語訳となります。

作者と出典

東直子

句切れと表現技法

・句切れなし

・初句 4句が字余り

・口語で詠まれた短歌

・「おねがいね」は他者の発話だがカギかっこはついていない

解説

現代の歌人、東直子の歌。

現代語で詠まれた歌なので、歌の内容はそのままで伝わるだろう。

ここでは、情景を想像してみることとする。

鍵を渡された作者

作者は知り合いか友人に鍵を渡される。おそらくは、知人の家の鍵で、用事を頼まれたものと思われる。

用事の内容は物を取りに行くとか、留守の時ペットへの餌やりを頼まれるとか、ちょっとしたことなのだろうが、相手は留守の間に作者に入ってもらっても安心だから鍵を渡しているのだろう。

家の鍵を渡されるというのは、信頼の証といえる。

「おねがいねって」の意味

初句の「おねがいねって」の部分は、「おねがいね」が相手の発語であるが、作者はここにカギ括弧を用いていない。

かぎ括弧:「おねがいね」って渡されているこの鍵を

原文:おねがいねって渡されているこの鍵を

となっている場合は、相手が必ずしも「おねがいね」といったかどうかはわからない。

そのような気持ちで渡された鍵という意味である。

とすると、「おねがいね」は女性の言葉だが、鍵を渡した相手は男性のこともあり得る。

「失くしてしまう気がする」に込められた気持ち

その大切な信頼の証である鍵を作者は「失くしてしまう気がする」というのはどういうことだろうか。

「気がする」なので、鍵はまだ作者の手元にある。

ならば、これから先、その鍵を失くさないようできるだけ予防ができるはずだ。

あるいは、作者は手のひらに置いた鍵を眺めながら、「失くしてしまうかも」と思っているのかもしれない。

失くさないようにお財布に入れるとか、紐をつけるとかの工夫をしようというのではない。

「鍵を失くす」は、実際の現象ではなく、作者の心の中にある何らかの予感だといえる。

「鍵を渡す」の象徴するもの

この歌で詠まれているのは鍵のことであって、実は鍵のことではない。

「失くす」かもしれないものは、「おねがいねって」と作者自身が思っている、その言葉に表される他者からの信頼である。

作者の心の中にあるのは、他者の信頼を失うかもしれないことへの予感といえる。

鍵をなくす2つの場合

さらにいえば、「失くすかもしれない」というのは、「鍵がなくなるかもしれない」とは違う。

「失くす」は他動詞で主語は作者自身であるので、もっと能動的な解釈もできる。

つまり、偶発的な何かが起こって、意図せずに鍵がなくなってしまうということが、「なくなる」である。

もう一つが、作者が「失くす」というのは、作者がその鍵、すなわち他者からの信頼を保持できないということだ。

ここで大切なのは「鍵を失くす」事態が、作者にとって不可避だということ。

「おねがいね」といわれても、他者と私の意図することは違う。

信頼をされても、他者の望みに応えられないこともある。

信頼を失うには、相手に応える能力が足りないこともあるが、この歌では、作者の「個」が他者のお願いに応えることを阻む印象がある。

作者は、自ら「鍵を失くす」ことを意識している。

そして、渡された鍵を失くしてしまう結果として、相手はもう作者には「鍵」を渡さなくなるだろうことも作者は予感しているのだろう。

「しまうかもしれない」ははっきりした離反とも違う。

「個」を意識した作者の避けがたい他者との断絶の予感が、一見やわらかい言葉で詠まれたこの歌に込められているように感じられる。

この歌を読んだ感想

最初は作者が人からの信頼を失うことを恐れているのかなとも思いました。「しまう気がする」に作者の予感があることから、作者の意図も交じっていると思います。相手は頼んでいるけれども、答えられないかもしれない、それに気が付いている作者は人との関係に寂しいものも感じていると思います。

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東直子について

東直子 あずまなおこ 1963年生まれ 広島県出身の日本の歌人、小説家、脚本家。 神戸女学院大学家政学部食物学科卒業。姉は歌人の小林久美子。

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