渡り鳥みるみるわれの小さくなり
国語の教科書に掲載されている上田五千石の代表作俳句の現代語訳と意味の解説、鑑賞を記します。
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「渡り鳥みるみるわれの小さくなり」の解説
読み:わたりどり みるみるわれの ちいさくなり
作者と出典
作者名:上田五千石 うえだごせんごく
出典:『上田五千石全句集』
現代語訳
渡り鳥が見ているうちにもどんどん飛び去っていき、私は小さくなっていくのであったよ
句切れ
初句切れ
切れ字
切れ字なし
表現技法
字余り
季語
- 季語は「渡り鳥」
- 秋の季語
形式
有季定型
「なり」の文法解説
述語の「なり」は、基本形「なる」。
なる 【成る】
自動詞ラ行四段活用
活用{ら/り/る/る/れ/れ}
意味は、「別の状態になる。変わる」
「なり」の表現技法
活用はその連用形で、この技法は正式には「句末連用中止法」または、「連用止め」と呼ばれる俳句の表現技法です。
結句に終止形を用いないことで、余韻が生まれます。
また、その後に省略された部分を読み手が補うこととなります。
「句末連用中止法」の用例
手毬唄かなしきことをうつくしく 高浜虚子
彼岸會や野道を土手に人つづき 高浜虚子
春雷や大玻璃障子うち曇り 高浜虚子
綿取や犬を家路に追廻し 与謝蕪村
花守や白き頭を突合せ 去来
春昼ややがてペン置く音のして 武原はん女
「渡り鳥みるみるわれの小さくなり」の鑑賞
一句の鑑賞を記します。
俳句の特徴の概要
渡り鳥が飛び去って行く様子の早さと距離感を、最終的に渡り鳥の視点で表現したところにこの句の特徴があります。
一句の中に「われ」から「渡り鳥」(逆ではない)の視点の変化が盛り込まれているため、動きのある句となっています。
句の表現するもの
- 渡り鳥の移動の早さ
- 時間の経過
- 遠近法に似た距離感
- 視点の変化
主語は「われ」
初句は「渡り鳥」ですが、句の主語は渡り鳥ではなく、「われ」です。
- 主語「われ」
- 述語「小さくなり」(連用止め)
対象と視点
通常なら、渡り鳥が飛んで遠ざかっていって、「渡り鳥が小さくなった」とするところを「われが小さくなった」と詠んでいるのです。
詠まれている対象物は「渡り鳥」「われ」の順番ですが、これらを見るものは、それぞれ逆の立場です。
詠まれているもの | 渡り鳥 | われの小さくなり |
見ている人(鳥) | われ | 鳥 |
「われ」が「小さい」ことを見られるのは、われ自身ではないので、渡り鳥の視点で詠まれていることがわかります。
「みるみる」の時間の経過
「みるみる」と副詞が挿入されていることで、渡り鳥がすばやく飛んでいることから、渡り鳥の飛ぶ速度の速さ、羽ばたきの力強さと、時間の経過が感じ取れます。
17文字の中に「みるみる・・・なり」によって、時間性が盛り込まれているのです。
視点の変化
もう一つは、渡り鳥の動きとは違う、この句を読む人の視点の変化です。
初句の「渡り鳥」で、読む人は、作者と同じように渡り鳥を見る位置にいます。
そのあと「みるみるわれの小さくなり」で、今度は渡り鳥の位置から「われ」」を見下ろす位置となり支店が変化します。
そしてその間の「みるみる」では、「小さくなる=遠ざかる」共有することになりますが、これは、既に鳥の位置の視点となっています。
空に浮かんで、人を見下ろす視点というのは通常ではあり得ません。
この俳句を読むことで、読者はその新しい視座を獲得し、新しい角度で風景を見ることとなります。
それがこの句のもっともおもしろいところです。
「渡り鳥みるみるわれの小さくなり」の作者について
作者上田五千石のプロフィールと、他の作品をご紹介します。
上田五千石のプロフィール
(うえだ ごせんごく、1933年10月24日 - 1997年9月2日)東京都出身。上智大学卒業。秋元不死男に師事
NH K趣味講座「俳句入門」講師。句集に『田園』『森林』『風景』『琥珀』『天路』『上田五千石全句集』、俳書に『生きることをうたう』『俳句塾』『春の雁』『俳句に大事な五つのこと 五千石俳句入門』などがある。
上田五千石の他の俳句作品
- 萬緑や死は一弾を以て足る
- ゆびさして寒星一つづつ生かす
- もがり笛風の又三郎やあーい
- 秋の雲立志伝みな家を捨つ
- 渡り鳥みるみるわれの小さくなり
- あたたかき雪がふるふる兎の目
- たまねぎのたましひいろにむかれけり