火焔土器よりつぎつぎと揚羽かな
国語の教科書に掲載されている堀本裕樹の代表作俳句の現代語訳と意味の解説、鑑賞を記します。
「火焔土器よりつぎつぎと揚羽かな」の解説
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読み:かえんどき よりつぎつぎと あげはかな
作者と出典
作者名:堀本裕樹 ほりもと ゆうき
出典:『熊野曼陀羅』
「火焔土器よりつぎつぎと揚羽かな」の現代語訳
火焔土器から、次々揚羽蝶が飛び立ってくるのであるよ
句切れ
句切れなし
切れ字
切れ字「かな」
表現技法
句またがり
季語
- 季語は「揚羽」
- 夏の季語
形式
有季定型
火焔土器よりつぎつぎと揚羽の鑑賞
この俳句を鑑賞する上でのいちばんのポイントは、幻想をそのまま詠んでいるというところです。
火焔土器とは
火焔型土器は、縄文時代中期を代表する日本列島各地で作られた土器の一種で、土器の中でも装飾的な特殊な形をしているのが特徴です。
火焔の由来は、土器の上部が「燃え上がる炎を象ったかのような形状」をしているためです。
土器は上に行くほど広がった逆ハの字の形をしており、口径が大きくなっています。
当時は当時調理用の器具として使われていました。
揚羽は揚羽蝶
揚羽というのは、揚羽蝶のことです。
火焔土器は現在では博物館などに展示されているものがあるだけです。
なので、この火焔土器から揚羽が次々と飛び立ってくるというのは、実際の光景ではありません。
作者はおそらく、この火焔土器を鑑賞の際に、句に詠んだようなイメージを持ったのだと思われます。
「つぎつぎと」の意味
「つぎつぎと」は揚羽蝶が複数であることを示しますが、これはいったい何羽くらいのことでしょうか。
あくまで作者の幻想、幻視的な光景なので、揚羽蝶は数匹ではなくて、どんどん出てくると想像できます。
しかも「つぎつぎと」は、一度にどっとあふれるように出てくるというよりも、蝶が一匹ずつ土器の端から連なって見えてくるいうことになります。
「火焔土器よりつぎつぎと揚羽かな」の主題
この句の主題は、「火焔土器」という「火焔」という特殊な軸の含まれる土器の名称、「炎のような」という通り、土器とは別なものを連想させる装飾的な造形からうる視覚的な印象に感銘を受けた作者の心象風景を表していると考えられます。
端的に言うと、この土器を見て心を動かされた作者が、自らの心の動きを表したのがこの俳句です。
土器と揚羽の組み合わせは、句の中でさらに斬新なイメージとなり、句を読む人の心にも強い印象を与えるものとなっています。
俳句の表現技法の工夫
表現技法としては、「火焔土器よりつぎつぎと揚羽かな」の部分に句またがりが用いられています。
これは、俳句の2句と3句の間の定型の区切りを回避するもので、蝶が連続的に飛び立つ、つまり、「つぎつぎと」の様子を音調の上で表現することに効果を与えています。
俳句の表記の効果
「つぎつぎと」は「次々と」の漢字にせず、「つぎつぎと」のひらがなとなっています。
「つぎつぎ」のひらがなの羅列は、やはり連続する蝶のイメージにつながるものがあります。
幻想を事実として
また、表現技法ではありませんが、揚羽が幻想だとか、「そのように見える」といった説明や間接性を避け、幻想があたかも現実であるかのようにそのままに表しています。
つまり、幻想を事実として表しているわけですが、俳句や短歌、詩はすべて、そこに表されたものが事実を凌駕するものです。
教科書の作品であれば他にも「オオカミに蛍が一つついていた」なども参考にしてみてください。
オオカミに蛍が一つ付いていた 金子兜太 季語 句切れ 大意解説
「火焔土器よりつぎつぎと揚羽かな」の作者について
堀本裕樹は現代の俳人です。
作者のプロフィールと、他の作品をご紹介します。
堀本裕樹のプロフィール
紀州生まれ。俳人。俳句結社「蒼海」主宰。『サンデー毎日』俳句欄第一週選者。近著に『才人と俳人』『ことちゃんとこねこ』『海辺の俳人』-堀本裕樹Xプロフィールより
堀本裕樹の他の俳句作品
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※自選15句より