今日の朝日新聞の「天声人語」欄に紹介されていた短歌をご紹介します。
日大アメフト部の「悪質タックル」の事件に並べて、掲載されていたものです。
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戦時場での体験を詠んだ『歌集 小さな抵抗』
作者は渡辺良三という方で、以前に自費出版で歌集としたものが、のちに『歌集 小さな抵抗』の岩波現代文庫版となり、複数のメディアで紹介されたことから、関心を持つ人の間では知られるようになりました。
内容は、学徒兵として44年、中国戦線に配属された作者が、新兵教育で捕虜の刺突・虐殺を命じられるが、渡辺さんはキリスト者でもあり、これを拒否。
そのため、制裁を受けるわけですが、それを含めて戦場での体験を詠んだ歌700首を記した紙を服に縫いつけて持ち帰ったといいます。
その代表的な作品
鳴りとよむ大いなる者の声きこゆ「虐殺こばめ生命を賭(かけ)よ」
内容(「BOOK」データベースより)
アジア太平洋戦争末期、中国戦線で中国人捕虜虐殺の軍命を拒否した陸軍二等兵の著者は、戦場の日常と軍隊の実像を約七百首の歌に詠んだ。そしてその歌は復員時に秘かに持ち帰られた。学徒出陣以前の歌、敗戦と帰国後の歌も含めて計九二四首の歌は、戦争とその時代を描く現代史の証言として出色である。戦場においても、人を殺してはならないという信条を曲げなかったキリスト者の稀有な抗いの記録である。
天声人語に掲載
今日の天声人語に掲載されたものは
「捕虜ひとり殺せぬ奴(やつ)に何ができる」むなぐら掴(つか)むののしり激し
酷き殺し拒みて五日露営の夜初のリンチに呻(うめ)くもならず
しかし、後になると、そうまでして守った信念も、そのような環境では揺らいでいったことも、そのままに歌に詠まれています。
人倫(みち)ふまぬ戦野ゆきつつ追い追いに神おそるるを忘れはてしむ
過酷な環境にあっては、信念と思ったものも砕け散ってしまう。これもまた人の姿であると思います。
映画『ハクソー・リッジ』沖縄戦が舞台
やや似たようなモチーフ、武器を持たない兵士を描いたものに、「ハクソー・リッジ」という映画を思い出します。
日本版の予告編では影響を考慮して、紹介されなかったようですが、驚いたことに、この映画の舞台は沖縄戦であったとのことです。
映画『ハクソー・リッジ』のあらすじ
主人公のデズモンドは、兵士として戦った第一次世界大戦で心に傷を負い、酒に溺れる父を見て育ちます。そして、「汝、殺すことなかれ」という教えを胸に刻んで成長します。
デズモンドは「衛生兵であれば自分も国に尽くすことができる」と陸軍に志願しますが、断固として銃に触れることを拒絶。従軍して戦地に赴き、弾丸の下をくぐりながら負傷した兵士を助け続けます。
まとめ--信念が見えてくるとき
「正しいことをしなければならない」という信念がきざす時は、その信念への何らかの対立が起こったときなのだということに気がつきます。
対立が皆無の時は、信念そのものも、ないも同然です。その意味が問われるのは、厳しくも成り立ち難い状況が起こったときであり、それを成り立たせるのは、意志に他ならない。
そして、心に思うことが大切なのは、それが行動に反映するからなのですね。見えないところで人の礎になるもの、それが信念なのだということに、一連の事件を通して気がつきました。
私自身も、これまでないがしろにしてきたものがなかったか、自分を振り返ってみようと思います。
また、幸いにして今の日本では、人を殺すことを命じられるようなことはありません。平和である時代に生まれて、それだけでも十分に幸運だったと感謝したいとも改めて思うのです。