泪より少し冷たきヒヤシンス プレバトで有名な俳人夏井いつきの俳句が朝日新聞「折々のことば」で紹介されました。
ヒヤシンスを詠んだこの俳句の意味の解説を記します。
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泪より少し冷たきヒヤシンス
読み:なみだより すこしつめたき ひやしんす
作者と出典:
夏井いつき 『瓢箪から人生』
現代語訳
涙の冷たさよりも もう少し冷たいヒヤシンスの花であるよ
切れ字と句切れ他
・切れ字・句切れなし
季語
季語は「ヒヤシンス」 夏の季語
表現技法
・体言止め
形式
有季定型
解説
朝日新聞の「折々のことば」に紹介された俳句。
この句を書いてくださいと頼んだファンが、句を口にして泣き崩れたという。
そこから作者の夏井いつきは俳句が触媒になって「心奥にしまわれていた感情を噴出させる」と悟ったという。
この俳句の意味
涙とヒヤシンスの花の温度を比較して、ヒヤシンスの方が冷たいというのがこの俳句の意味です。
ヒヤシンスが冷たいということは、比較して涙の方が温かいということになります。
涼しげなヒヤシンス
ヒヤシンスの花は水につかっている水耕栽培で育ち、花開くことが多く、いかにも涼しげです。
また、花の冷たさよりもヒヤシンスを行けたガラスの器の感触も含めて想像することもできます。
単体では存在しない涙
一方、涙というのは涙だけがそこにあるということはなく、単体では存在しません。
必ず人が流した涙という前提があります。実際の温度よりも、人の体温、文字通りの人のぬくもりが涙には含まれています。
句に詠まれているのはもちろん実質的な温度差ではなく、作者の上記のような主観が表れているのです。
ヒヤシンスと涙の並置の意味
そして、ヒヤシンスと比べることで、人の涙の温かさを述べる、これがこの俳句の主題です。
何も比べる物がなく「人の涙が温かい」といっても説得力がありません。
あるいは、視覚的にとらえられる具体的な物がなければ、比較にも説得力がありません。
この歌の主題は、人の涙とヒヤシンス、その両方を並べることで成立するのです。
人の涙の意味
涙についてもう少し考えてみると、涙は人とセットの事物ではあるのですが、さらにこの涙は、ただ”水の粒”というだけではなく、人の感情とつながってそこに在るというものなのです。
川の水やコップの水とは違って、人の感情によって現れるのが涙です。
涙の理由にある人の感情
この感情には、深い感動や悲しみ、喜びなど、人の涙の理由には幅があります。
人の感情がそれほどまでに豊かであるということにも改めて気づかされるのです。
夏井いつきの他の俳句
遺失物係の窓のヒヤシンス
泳ぎだす躰に水流の羊膜冷房ぬるし
銃めく新型体温計
目高数ふ朝の動体視力かな
さみしさの金魚はめりめりと太る
鶴を抱くやうな余生をたのしまん
夏井いつきについて
夏井 いつきは、日本の俳人・エッセイスト。本名は加根伊月。帝塚山学院大学リベラル・アーツ学部客員教授。 愛媛県南宇和郡内海村の出身で、同県松山市に在住。現在の夫は、CM・映像プロデューサーの加根光夫である。-出典:夏井いつき ウィキペディアフリー百科事典