「やはらかに柳あをめる北上の岸辺目に見ゆ泣けとごとくに」石川啄木の歌集「一握の砂」より有名な短歌代表作品の現代語訳と句切れ、表現技法などについて解説します。
スポンサーリンク
やはらかに柳あをめる北上の岸辺目に見ゆ泣けと如くに
読み)やはらかに やなぎあおめる きたかみの きしべめにみゆ なけとごとくに
作者
石川啄木 『一握の砂』
現代語訳と意味:
柔らかに柳の若葉が青く揺らぐ北上川の岸辺が目に見える 私に泣けと言わんばかりに
語の意味と文法解説:
・あおめる……基本形「青む」 意味は「青くなる」
「…める」は連体形
・北上の……啄木の故郷にある北上川のこと
・見ゆ…「見える」の文語
見るの基本形は文語では「見ゆ」 よって終止形
・泣けとごとくに
「泣け」は命令形
「…ごとくに」……「何々であるかのように」の意味
表現技法と句切れ:
見ゆが集計で句切れ、よって4句切れ 倒置法
それ以下「泣けと如くに」は見ゆを修飾する副詞節 倒置法
解説と鑑賞
家族と共に故郷の岩手県を追われた啄木は、故郷渋民村を偲ぶ歌を多く詠んでいるものが、歌集『一握の砂』に載せられている。
現在を詠む歌に比べて、少年期の思い出が詠まれたものは、いずれも素直で美しい作品が多い。
この歌は盛岡市の歌碑にもなっている。
思郷のせつない思いを強める倒置法
「目に見ゆ」というのは、現実に見ているのではなく、故郷の思い出として、渋民村の春を象徴する柳の「青」がありありと目の裏に浮かんでくるという意味。
それだけでも思郷のせつない思いが表されていうるが、さらにそれに重ねて「泣けとごとくに」と重ねることとでそれがさらに強められることになっている。
4句切れと倒置が効果的である。
「泣く」は啄木の短歌に多い言葉であるが、むしろ、実際に泣いているのではなくて、柳が望郷の情をかき立てるものとして、「泣けとごとくに」というのがいい。
石川啄木の短歌一覧