奥山にもみじ踏み分け鳴く鹿の声聞く時ぞ秋は悲しき
猿丸太夫の古今和歌集と百人一首に採られた有名な和歌、現代語訳と句切れや係り結びの修辞法の解説と鑑賞を記します。
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奥山に紅葉ふみわけ鳴(なく)鹿のこえ聞くときぞ秋はかなしき
作者:猿丸太夫 (古今集では「よみ人知らず」)
出典:百人一首5番『古今集』秋上・215
現代語訳:
山の奥に紅葉の落ち葉を踏み分けながら、鹿の鳴く声を聞く秋はことさらに悲しく思われる
・・
語と句切れ・修辞法
一首に使われていることばと文法と修辞法、句切れの解説です。
・奥山…山の奥のことだが、人里離れた隔絶した状況の代表的景物とされる
・ふみわけ…基本形「踏み分く」 意味は「踏み分ける」紅葉を踏みながら歩み入る。
この主語は作者でなく、「鹿」とも読める
・「ぞ」…強意の助詞
・「ぞ…悲しき」で係り結び
係り結びの解説
係り結びとは 短歌・古典和歌の修辞・表現技法解説
使われている修辞法と句切れ
・句切れなし
・係り結び「ぞ…悲しき」
係り結びの解説
係り結びとは 短歌・古典和歌の修辞・表現技法解説
元歌は万葉集にある。以下参照
解説
古今集の他、百人一首にも採られた有名な歌です。
秋の代表的な紅葉と鹿の声の両方を一首に取り入れました。
鹿の声は万葉集の頃から秋の代名詞的なモチーフです。
古今集の秋歌上のこの歌の前後には、「鹿の声」を歌うものが5首連続しています。
秋になると、雄の鹿は雌を思って鳴くとされ、人の恋情とあいまった擬人化された哀れさと、秋という物悲しい季節が一つになった主題として長く読みつがれてきました。
現代では鹿の声がどのようなものか知る人は少なくなっていると思いますが、この歌のしみじみとした物悲しさと、生きるものの哀切さを心に浮かべてみてください。
万葉集の鹿の和歌 参考
万葉集の鹿を詠んだ歌端68首あるとされています。
夕されば小倉の山に鳴く鹿は今夜は鳴かず寐ねにけらしも 1511
山彦の相響むまで妻恋ひに鹿鳴く山辺に独りのみして 1602
秋さらば今も見るごと妻ごひに鹿か鳴かむ山ぞ高野原の上うへ 84 長皇子
秋萩の散りのまがひに呼び立てて鳴くなる鹿の声の遙けさ 1550 湯原王