秋の和歌、四季を詠んだ歌のうちでも秋を詠んだ歌はたくさんあります。
古来、秋は歌ごころを誘う季節ともいえますね。
特に読んでおきたい有名な秋の和歌を万葉集、古今集と古今和歌集の時代から選りすぐってまとめてご紹介します。
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秋の歌 万葉集から
まずは万葉集から秋の和歌をご紹介します。
君待つと我が恋ひ居れば我が宿の簾動かし秋の風吹く
作者と出典
万葉集 額田王 ぬかたのおおきみ
この和歌の意味
あなたを待って恋しく思っていたら、あなたと見まごうかのように私の家の簾を動かして秋風が吹くのです
額田王の代表作の一つです。この風は「秋風」がぴったりですね。
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あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る/額田王の有名な問答歌
秋の日の穂田を雁がね暗けくに夜のほどろにも鳴き渡るかも
読み:あきの日の ほだをかりがね くらけくに よのほどろにも なきわたるかも
作者と出典
聖武天皇 万葉集 巻8・1539
この和歌の意味
秋の日の穂田を刈るのではないが、その雁が暗いのに夜明け近くに鳴き渡っているよ
掛詞と序詞が工夫された聖武天皇作。
雁は秋の代表的な鳥とされていますね。
※聖武天皇の他の作品
道にあひて咲まししからに降る雪の消なば消ぬがに恋ふといふ吾妹 聖武天皇
秋風の吹きにし日よりいつしかと我が待ち恋ひし君ぞ来ませる
作者:山上憶良
出典:「万葉集」巻八
歌の意味
秋風の吹いた日からいつかいつかと、私が恋いて待っていた君がいらしゃった。
憶良の恋の歌。
この歌では、到来した秋風のさわやかさと、慕う相手とを並置しています。
他にも
秋風の短歌 古今集と万葉集から思う人に会えないわびしさと切なさ
庭草に村雨降りてこほろぎの鳴く声聞けば秋づきにけり
読み:にわくさに むらさめふりて こおろぎの なくこえきけば あきづきにけり
作者と出典
万葉集 巻10 2160 作者未詳
この和歌の意味
通り雨の村雨が降ったら、蟋蟀が鳴き始めた声が聞こえて、そうなるとすっかり秋めいてきたのだなあ
雨で涼しくなった空気を感じながら、秋の訪れを実感するという内容です。
秋の野に咲きたる花を指折り(およびをり)かき数ふれば七種(ななくさ)の花
作者と出典
万葉集 巻8 1537 山上憶良
この和歌の意味
秋の野原に咲いた数々の花を、指を追って数えると7種類であるよ
この一つ後の歌が
萩の花尾花葛花(くずはな)なでしこの花おみなえしまた藤袴(ふじばかま)朝顔の花
と七草が出てくるのです。親切ですね。
詳しい解説は個別ページに
秋の七草は万葉集の山上憶良の短歌 「秋の野の花を詠む歌」
黄葉の過ぎにし子らと携はり遊びし礒を見れば悲しも
読み:もみちばの すぎにしこらと たづさはり あそびしいそを みればかなしも
作者と出典
万葉集 1796 柿本人麻呂
この和歌の意味
黄葉が散り過ぎるように逝った妻とかつて手を取り合い遊んだこの黒江の磯は、ただ見るだけで悲しいことよ
関連記事:
紅葉・黄葉の名作短歌・和歌 万葉集、百人一首より
今よりは秋風寒く吹きなむをいかにかひとり長き夜を寝む
作者と出典
万葉集 大伴家持
歌の意味
これからは秋風が寒く吹く季節になるが、そんな秋の長い夜を一人で過ごすのはつらいことだ
妻を亡くした寂しい気持ちを「秋風が寒い」ことと重ねて表し、秋の夜長につなげています。
切なく悲しい秋らしい歌と言えます。
■『古今集・新古今集』の秋の和歌
ここからは古今集の時代の、有名な秋の歌を紹介します。
まずは古今集の歌から。
木の間よりもりくる月の影みれば心づくしの秋はきにけり
作者:読み人知らず
出典:古今集 184
意味
木の枝の間から漏れてくる月の光を見ていると、悲しい思いの限りを尽くさせるその秋が来たのだなあ
解説
「こころづくし」の意味が興味深いですね。この和歌のコンセプトは「悲秋」。悲しい秋のことはそう呼ばれます。
この歌の詳しい解説
木の間よりもりくる月の影見れば心づくしの秋は来にけり 古今集
わがためにくる秋にしもあらなくに虫の音きけばまづぞかなしき
作者:読み人知らず
出典:古今集 186
意味
私一人のためにくる秋でもないのに、虫の声を聞けば、他の何よりも悲しくなることだ
解説
「秋にしもあらなくに」「…というわけでもないのに」というストレートでない主観の述べ方が特徴的で、秋の物思いにふさわしい感じがします。
この歌の詳しい解説
木の間よりもりくる月の影見れば心づくしの秋は来にけり 古今集
月見れば ちぢにものこそ 悲しけれ わが身一つの 秋にはあらねど
作者:大江千里
出典:『古今集』
現代語訳:
月を見れば、様々に思いが乱れて悲しいものだ。別に私一人のために秋がやってきたというわけでもないのに
この歌の詳しい解説
月見ればちぢにものこそ悲しけれわが身一つの秋にはあらねど 大江千里
・・
奥山に紅葉ふみわけ鳴(なく)鹿のこえ聞くときぞ秋はかなしき
作者:猿丸太夫
出典:百人一首5番『古今集』秋上・215
現代語訳:
山の奥に紅葉の落ち葉を踏み分けながら、鹿の鳴く声を聞く秋はことさらに悲しく思われる
秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる
作者: 藤原敏行朝臣
出典:古今集
現代語訳:
秋が来たといって目にはっきりと見えるようなものは何もないのだが、ただ風の音が秋めいていて、心が揺れるのだ
この和歌の解説は
秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる/藤原敏行朝臣
ちはやぶる神代も聞かず竜田川 からくれなゐに水くくるとは
読み:ちはやぶる かみよもきかず たつたがは からくれなゐに みづくくるとは
作者と出典
在原業平朝臣(
百人一首 17 「古今集」
現代語訳と意味
不思議なことが多かった神代にも聞いたことがない。龍田川が、水を美しい紅色にくくり染めにするなんて
ちはやぶる神代も聞かず竜田川 からくれなゐに水くくるとは 在原業平
秋の田の かりほの庵の 苫(とま)をあらみ わが衣手は 露にぬれつつ
作者:天智天皇
出典:『後撰集』
現代語訳:
秋の田のほとりの仮小屋の、屋根を葺いた苫の編み目が粗いので、私の衣の袖は露に濡れていくばかりだ。
この短歌の詳しい解説
秋の田のかりほの庵の苫をあらみわが衣手は露にぬれつつ/天智天皇
『新古今集』の秋の和歌
ここからは和歌の百花繚乱、新古今集の秋の和歌をご紹介します。
名作ぞろいなので、ぜひ味わってみてください。
見わたせば 花も紅葉(もみぢ)もなかりけり 浦の苫屋(とまや)の 秋の夕暮れ
作者:藤原定家
出典:新古今和歌集
現代語訳:
見渡してみても花も紅葉も見えないことよ。この海辺の苫ぶきの粗末な小屋のあたりの秋の夕暮れの景色には
この短歌の詳しい解説
見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ 藤原定家「三夕の歌」
寂しさはその色としもなかりけり槙立つ山の秋の夕暮れ
読み: さびしさは そのいろとしも なかりけり まきたつやまの あきのゆうぐれ
作者と出典
寂蓮法師 (じゃくれんほうし)
新古今和歌集 361 「寂連法師集」
現代語訳と意味
この寂しさは特にどこからというのわけでもないことだ、真木の生い立つ山の秋の夕暮れよ。
寂しさはその色としもなかりけり槙立つ山の秋の夕暮れ 寂蓮法師
心なき身にもあはれは知られけりしぎ立つ沢の秋の夕暮れ
読み: こころなき みにもあはれは しられけり しぎたつさはの あきのゆふぐれ
作者と出典
西行法師(さいぎょうほうし)
新古今和歌集 362 他に「西行法師歌集」
現代語訳と意味
あわれなど解すべくもないわが身にも、今それはよくわかることだ。鴨の飛び立つ沢辺の秋の夕暮れ
上の3つは「三夕(さんせき)の歌」として古くからたいへん有名な新古今の代表的な秋の歌となっています。
秋風にたなびく雲のたえ間よりもれいづる月の影のさやけさ
作者:左京大夫顕輔(さきょうのだいぶあきすけ)
出典:百人一首 79 『新古今集』秋・413
現代語訳:
秋風によって空に細くたなびいている雲の切れ間から、地に差す月の光の清らかさよ
こちらは、百人一首の名作。
なんとも風情のある秋の歌です。
桐の葉も踏みわけ難くなりにけり必ず人を待つとなけれど
読み:きりのはも ふみわけがたく なりにけり かならずひとを まつとなけれど
作者と出典
式子内親王(しょくしないしんのう)
新古今集 秋歌下
現代語訳と意味
桐の葉も踏まなければ歩けないほど深く積もってしまった。もっとも人を待っているというわけではないのだけれども
桐の落ち葉を題材にした恋歌です。
秋らしい寂しい情緒にいろどられていますね。
花は散りその色となくながむればむなしき空に春雨ぞふる
読み:はなはちり そのいろとなく ながむれば むなしきそらに はるさめぞふる
作者と出典
式子内親王(しょくしないしんのう)
新古今集 149
現代語訳と意味
花はすっかり散りはててしまって どこということもなくてしみじみと思いをこらしてみると、何もない大空に春雨が降っている
こちらは、特に秋というのではないですが、花が散るというのはやはり秋を連想させるかもしれません。
夕されば野辺の秋風身にしみて鶉鳴くなり深草の里
読み: ゆうされば のべのあきかぜ みにしみて うずら なくなり ふかくさのさと
作者と出典
藤原俊成(ふじわらのとしなり)
千載和歌集 秋上259
現代語訳と意味
夕方になると野原を吹く秋風が身に染みて、鶉が鳴いている。この深草の里には
藤原俊成は「幽玄」という言葉で和歌の特性表し、そのような情緒を良しとした歌の指導者でもあります。
終わりに
古くからある有名な秋の歌、よく知られた歌人の名作をあげましたがいかがでしたでしょうか。
皆さんも季節の変化に目を向けてみて、秋を感じさせる歌をぜひ詠んでみてくださいね。