石川啄木

ふるさとの山に向ひて言ふことなしふるさとの山はありがたきかな/石川啄木『一握の砂』短歌代表作品

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「ふるさとの山に向ひて言ふことなしふるさとの山はありがたきかな」石川啄木の歌集「一握の砂」より有名な短歌代表作品の現代語訳と句切れ、表現技法などについて解説します。

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ふるさとの山に向ひて/言ふことなし/ふるさとの山はありがたきかな

読み: ふるさとの やまにむかいて いうことなし ふるさとのやまは ありがたきかな

作者

石川啄木 『一握の砂』

現代語訳と意味:

故郷の山に向かっては言うこともない。ふるさとの山はこの上なくありがたいものだよ

語の意味と文法解説:

・言ふことなし…「言うことなし」は、申し分がない、非の打ちようがなく、すばらしい、との意味

・ありがたきかな…ありがたし+かな(詠嘆の助動詞)

表現技法と句切れ:

・3句切れ

・「言ふことなし」は6文字の字余り

・「ふるさとの山」は同じ言葉の繰り返し 反復となる

解説と鑑賞

明治43年8月28日作。

章の題は「煙」。「二」の最後の歌になる。

「ふるさとの山」に対しての、「言ふことなし」と「ありがたきかな」は、ほぼ同じ言葉で、ことばを変えてふるさとの山に対する思いを表現している。

「言うことなし」は、言うという動作ではなく、、申し分がなくすばらしい」という意味なので、「ふるさとの山は言うことなし」であっても成り立つ文なのだが、作者は「向かひて」と、あたかも故郷の山が、目の前り、自分の視線の方向性を指し示すような動作性を加えている。

 

構成からみる一首成立の背景

この歌は、この章の最後の歌となっており、啄木はこの歌をもって、この章を終える意図がある。その点からさかのぼって考えてみるとする。

この章の最初の歌が「ふるさとの訛なつかし/停車場の人ごみの中に/そを聴きにゆく」、そして、その後に続く歌は、ほぼすべてが故郷の回想である。

「かにかくに渋民村しぶたみむらは恋しかり/おもひでの山/おもひでの川」

「石をもて追はるるごとく/ふるさとを出でしかなしみ/消ゆる時なし」

などが過去形で詠まれているのに対し、この「ふるさとの」歌に関しては、現在の故郷の山であり、歌のことばもそのため現在形である。

回想の歌を、ひとつでも多く連ねようとして記憶を掘り起こすことを続けていたものの、思い出も尽き、言葉も尽きると同時に、作者の前にまざまざと現れたのがこの「山」であったと考えられる。

過去のモノクロ写真のようなネガティブな回想から、今現在も色褪せぬ故郷への変わらぬ思い、それを可視化させるイメージとして表れたの山を詠んだこの歌をもって、啄木は一連の故郷の歌を終えている。

「停車場」の歌と対比してみると、ふるさとを思う「場」は「停車場」すなわち、当地の駅であって、故郷とは遠く隔たっていることがわかる。

回想を終えて、啄木は遠く隔たって故郷を思うのではなく、長い心の旅路の果てに故郷に到着し、さらに故郷にあって、少年であった啄木ではなく、大人に成長した今まさに山を間近に見るその地に立っているという、啄木の心象の情景がわかるだろう。

心の浄化を目的として詠まれた短歌ではないが、歌を詠むことでもたらされた平安と言えなくもない。

しかし、一首の成立には様々な要因が関わっており、その一首だけをもって判断はできない。むしろ、成立の背景は、思うよりはるかに実際的なところにあることもある。

「ふるさとの山」とはどこの山か

「ふるさとの山」が、どの山かということを疑問に思う人もいるようだ。

なお、山の名前を記すとすると、岩手山、姫神山などが挙げられる。

しかし、この歌集『一握の砂』冒頭の作品、「東海の小島の磯の」と同じことで、特定の山をうたったものではなく、ふるさとを象徴するものとして、「山」を置いたのだろうとも推測できる。

そもそもこの歌集にある歌は、啄木の自室で、多く一晩で詠まれたものであり、歌に登場するものは、啄木の心の中に浮かぶ回想の事物、すなわち表象であって、実際の事物を表すことが目的ではない。

故郷にあって、幼い頃から親しんだ山に「向かう」、つまり、山を心に思い浮かべると、そのような気持になるという、啄木の故郷への思いを読み取れる。

歌人、釈迢空の評

釈迢空(しゃく ちょうくう)はこの歌を次のように評している。

このころになると、啄木には、嘘もかけねもなく、いかにも、その心の底にある厳粛感がやさしさに満ちた調子で表現せられてきました

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-石川啄木

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