平成万葉集

『平成万葉集』第2回 テーマ「男と女」から河野裕子・永田和宏夫妻の短歌

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元号が変わる前の平成最後の年にテレビ番組として編まれた『平成万葉集』。

短歌人口百万の中から選りすぐった平成こころの歌、平成30年を短歌でたどるというものでした。

その中から、歌人の永田和宏、河野裕子さんの部分です。

「平成万葉集プロローグ」「第1回ふるさと」「第2回男と女」短歌の作品は、それぞれ前の記事にありますので、そちらをご覧ください。

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永田和宏、河野裕子さんの短歌

以下はナレーションです。

――京都の永田和宏さん。永田さんは河野さんを詠み、河野さんは永田さんを詠み、数えきれない恋歌が生まれました。

夫の永田和宏さん談

平成20年癌で亡くなった妻河野裕子さん。永田さんは次のように

今から考えると、一番憎んでいたんじゃないかと思いますね。でもやはり愛していたんじゃないかなあ。それだけは疑わなかったですね。

 

夫は細胞生物学の権威

 

河野裕子さんの歌

文献に癌細胞を読み続け私の癌にはふれざり君は 河野裕子

永田さんは、細胞生物学の世界的権威。しかし目に見えないところで妻の癌は進行していました。

癌の宣告を受けたとき

平成14年河野さんの言葉

京大病院の形成外科を受診したが、すぐに乳腺外来に回された。マンモグラフを見ていた医師が向き直って「悪性です」と言った時はすぐに事態が飲み込めなかった。
診察を終えて病院の横の路地を歩いていると、向こうから永田がやってきた。彼とは30年以上暮らしてきたが、私を見るあんな表情を初めて見た。痛ましいものを見る人の目。この世の隔たったものを見る目だった

 

 

宣告を受けて、はじめて夫に会った時の河野さんの歌

何といふ顔してわれを見るものか私はここよ吊り橋じゃない 河野裕子

永田さんの回顧

私は見事に平静を演じきったと思っていたのに、私の顔はどこか歪んでいたのだろうか。引きつっていたのだろうか。
目の前にいる河野を正面から見られなかったのかもしれない。「私はここよ吊り橋じゃない」が切なく痛い。――「残された時間」永田和宏著

 

癌の摘出手術を終えた河野さん再発の恐れを抱えながら薬の副作用に耐える日々が続きます。

手術の後もできるだけ普段の生活を変えない。河野を病人として扱わない、そういう風にしてきたと思うけど、あとになってみると、それが河野を苦しめていたというか。

 

 

平然と振る舞うほかはあらざるをその平然をひとは悲しむ  永田和宏

 

夫を責める日々

或る種精神のバランスを崩して、かなりひどい時期がありましたね。
僕に対して「癌になったのはあなたのせいだ」みたいなところがあって。乳がんっていうのはホントは旦那が気が付かないとダメみたいなところもあって・・・

それが河野の中でどんどん膨らんできて、かなり不安定になって月光するようになって、僕を責め立てるようになって

 

しかし、永田さんは河野さんの一つの歌で、それらが払しょくされたと言います。

あるとき河野が歌を作ったんですよね。この歌ですべて許せると思ったし、堪えてきてよかったんだという思いはしましたけど

 

永田さんが妻を許せると思ったのは、この歌

あの時の壊れた私を抱きしめてあなたは泣いた泣くよりなくて 河野裕子

この歌に対する永田さんの思いは

絶対彼女は朦朧としていたので憶えていないだろうと思ったんだけれども、それをちゃんと覚えていてくれた。それで本当に救われたという感じがしましたね。

 

運命を受け入れる

生きてゆくとことんまでを生き抜いてそれから先は君に任せる 河野裕子
一日が過ぎれば一日減ってゆくきみとの時間もうすぐ夏至だ 永田和宏

 

短歌の口述筆記へ

入院していたころは病室がくらくなってからでも歌を書いていたみたいで
、ティッシュペーパーの箱とか、薬袋の裏とか、もうほんとに鉛筆を握る力もなくて

 

この家に妻との時間はどれくらゐ残ってゐるか梁よ答へよ 河野裕子

 

口述筆記の様子

 

「最後いよいよもうペンを持てなくなると、時々思い出したように歌が口をついてくるという時があって、慌てて紙を持ち出して書き留めた」と永田さん。

永田さん「『長生きしてほしいと誰彼数へつつついにはあなたひとり一人を数ふ』 でいいですか」

河野さん「よろしいです」

 

別れの前の日の歌

手を伸べてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が  河野裕子

 

別に日常的に「ありがとう」とか「あなたに感謝してる」とか、そんな事は面と向かっては何も言わなかったんですね。

歌だけ読んでくれてれば全部伝わってたと思うので、「ひとつだけあなたは可愛かったよ」って言ってやれば良かったと思っていますけれどもね

 

おばあさんになったあなたを見たかった庭にちひさくまどろむやうな 永田和宏

 

『平成を忘れない』

番組後半部分、平成の出来事を回顧する短歌です。

ナレーション:
――亡き人への思いは平静を越えて続きます、永田和宏さん妻、顔和の裕子さんとの出会いから別れまでの43年。

歌があるから、その日々をつぶさにたどることができます。

 

(どんな恋だったんですか?と問われて)

自分でいうのも変だけど、お互いに激しかったのかな。そんな気がしますよね

僕の他に咲きに好きな男性がいて、後で僕が現れたもんだから、それで本気で悩んで、あの頃は彼女は本当に一所懸命だったので

 

陽にすかし葉脈くらきを見つめをり二人のひとを愛してしまへり 河野裕子

きみに逢う以前の僕に遭いたくて海へのバスに揺られていたり 永田和宏

 

河野裕子の代表作

 

――出会いから半年、河野さんの歌

たとへば君ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか 河野裕子

 

あれは歌としては反則だよね。あんな歌見せられたらせざるを得ないからね。あれは僕は今でも、反則の歌と言っているのですが、いやがうえにも闘志に火がつくというか

 

ひとりの日々に

抱きたいと思へる女性がどうしやうどこにもなくて裕子さん、おい  永田和宏

 

よくもこんなに飽きもせず延々と相手のことを歌ってたなと思うんですけれども。相手に興味があると言うか、相手が面白いと思ってるのでどうしても相手のことを歌っちゃうというか、一番面白い素材だったんですよね

 

二人が交わした恋歌は生死を超え今も新しい歌が生まれ続けています

 

訊くことはつひになかつたほんたうに俺でよかつたのか訊けなかつたのだ  永田和宏

 

『平成万葉集』第二回テーマ「男と女」から、永田和宏、河野裕子夫妻の歌を紹介した番組部分は以上です。





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