斎藤茂吉『赤光』代表作 現代語訳付き  

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斎藤茂吉『赤光』代表作 現代語訳付き

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このページは、斎藤茂吉の歌集『赤光』の中の、「死にたまふ母」以外の代表作の現代語訳のみのコンパクト版です。

一首ずつの詳しい解説につきましては、インデックス、『赤光』斎藤茂吉短歌代表作一覧 現代語訳付き解説と鑑賞 よりご覧ください。

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『赤光』関連ページのご案内

・「死にたまふ母」は別ページ「死にたまふ母」全59首の方にあります。

・斎藤茂吉の作品と生涯については、こちらにまとめてあります

斎藤茂吉の作品と生涯斎藤茂吉の作品と生涯 特徴や作風「写生と実相観入」

 

月落ちてさ夜ほの暗く未だかも弥勒は出でず虫鳴けるかも

現代語訳
月が落ちてほの暗い夜だが、まだ仏の姿は見えないで、虫だけが鳴いているのだなあ

かへり見る谷の紅葉の明(あき)らけく天(あめ)にひびかふ山がはの鳴り

現代語訳
振り返って見る谷の紅葉は明るく、山の川の流れる音が谷底から空に向かって鳴り響いている

 隣室に人は死ねどもひたぶるに箒ぐさの実食ひたかりけり

現代語訳
隣の病室で患者である人が死んだけれども、隣り合わせの部屋にいる私はホウキグサの実が無性に食べたいものだよ

 
細みづにながるる砂の片寄りに静まるほどのうれひなりけり

現代語訳
細い水の流れにさえ流されず、流れの端に静かに淀んで残る細かい砂、その位の静かでかすかな憂いがある

木のもとに 梅はめば酸しをさな妻ひとにさにづらふ時たちにけり

現代語訳

梅の木の下で、まだ熟しきっていない梅の実を食べたをさな妻が、酸っぱそうな顔をして、はにかんで赤くなるまでに、時が経って妻も成長したのだなあ

 
おのが身をいとほしみつつ帰り来る夕細道に柿の花落つも

現代語訳
自分の身をいとおしくいたわりながら歩んで帰ってくる夕方の細い道に柿の花が落ちるよ

たまたまに手など触れつつ添ひ歩む枳殻(からたち)垣にほこりたまれり

現代語訳
たまたま手を触れながら枳殻の垣根に添って歩いてくると、その垣根に埃がたまっていた

 しろがねの雪のふる山にも人かよふ細ほそとして路見ゆるかな

現代語訳
銀色一色の雪の降る山の中にも人が通る細い細い道が見えるのだ

 
赤茄子の腐れてゐたるところより幾程もなき歩みなりけり

現代語訳
赤茄子が腐って捨てられていたところを見てから、どれほど歩いたろうとふと思うと、いくらも歩いていないことよ

猫の舌のうすらに紅(あか)き手ざはりのこの悲しさを知りそめにけり

現代語訳

猫の薄赤い舌の手ざわりのこの悲しさを初めて知ったのだよ

けふもまた向ひの岡に人あまた群れゐて人を葬りたるかな

現代語訳

今日もまた向いの丘に人がたくさん群れていて誰か亡くなった人を葬ったのだなあ

いちめんに唐辛子あかき畑みちに立てる童のまなこ小さし

現代語訳

一面に唐辛子の赤く実る畑の道に立っている子供の目は小さい

けだものは食(たべ)もの恋ひて啼き居たり何(なに)といふやさしさぞこれは

現代語訳

けものたちは食べ物を欲しいがために鳴いている。なんというやさしさなのだろう、これは

ゆふ日とほく金に光れば群童は眼つむりて斜面をころがりにけり


現代語訳
夕日が遠く金に光ると子供たちは目をつぶって斜面を転がったのだなあ

 
雪の中に日の落つる見ゆほのぼのと懺悔(さんげ)の心かなしかれども

現代語訳

雪の中に日が沈んでいくのが見える。懺悔の心のようでほのぼのと悲しい

ひんがしはあけぼのならむほそほそと口笛吹きて行く童子あり

現代語訳
東の方は夜明けなのだろう。細い音で口笛を吹きながら行く子供がいる

なげかへばものみな暗しひんがしに出づる星さへあかからなくに

現代語訳

嘆き続けていれば辺りのものは皆暗い。東の空に上る星さえ明るく見えないくらいに

どんよりと空は曇りて居りしとき二たび空を見ざりけるかも

現代語訳

どんよりと空が曇っていたので再び空を見上げなかったのだよ

ダアリヤは黒し笑ひて去りゆける狂人は終にかへり見ずけり

現代語訳

ダリヤの花は黒い。笑って去って行く狂人はとうとう(私の居る)後ろを振り返ることはなかった

めん鶏ら砂あび居たれひつそりと剃刀研人(かみそりとぎ)は過ぎ行きにけり

現代語訳

めん鶏は砂を浴びていた。その庭をひっそりと剃刀研ぎ師が通り過ぎて行くのだなあ

たたかひは上海に起り居たりけり鳳仙花赤く散りゐたりけり

現代語訳

戦いは上海に起こっていた。ホウセンカが紅く散っていた

ひた走るわが道暗ししんしんと怺へかねたるわが道くらし

現代語訳

一心に走る私の道は暗い。しんしんと迫るものに堪えかねている私の道は暗い




-赤光

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