酒なくて詩なくて月の静かさよ 中秋の名月を過ぎて、思い出すのが夏目漱石の俳句です。
夏目漱石は短歌より俳句が好きだったようで、正岡子規に俳句を習ったことがあります。
夏目漱石と月のエピソードと月の俳句をご紹介します。
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「月がきれいですね」と「I love you」
夏目漱石と月というと、必ず上げられるのが「I love you」翻訳のエピソードです。
学生が「私はあなたを愛しています」と訳したのに対して、「そんな日本語はない。『月がきれいですね』とでも訳しておけばよい」と指導したという話です。
漱石自身の話ではないので、あるいは作り話かもしれませんが、この話が行き渡っているのは、日本語はもとより、日本人の感性に合っているところがあるためでしょう。
詳しいところは以下の記事に。
夏目漱石アイラブユーIloveyouの訳は「月がきれいですね」
もうひとつ、夏目漱石と月で思い出すのが、下の俳句です。
酒なくて詩なくて月の静かさよ
作者:夏目漱石
月見酒不要の「酒なくて」
「酒なくて」というのは、いわゆる月見酒のことなのでしょう。
花見酒とは違って、そう騒がしいものとは思えませんが、胃弱の漱石は酒をたしなまなかったのでしょうが、「酒」にまつわる月以外のものをことごとく不要にするという意味かもしれません。
「詩なくて」
一方、「詩なくて」というのは、意外な気もしますが、普段から文筆を仕事にしている人は、「詩」を考えることは気が休まることではないのですね。
感動を誘うような、短歌や俳句も、月の静けさの前には、煩わしいというのでしょう。
月を詠んだ詩歌は世にたくさんありますが、酒や言葉の享楽をも離れたところに月がある、その静けさに浸ろうというものです。
明恵上人の「あかあかやあかあかあかやあかあかやあかあかあかやあかあかや月」はその境地をもっと押し進めたところにある短歌ですが、漱石の俳句は、それに比べればやや内省的ともいえるかもしれません。
夏目漱石自身の「アイラブユー」は
ちなみに、漱石には「アイラブユー」はなかったのかというと、小説「坊ちゃん」には、「きよ」という女中がでてきます。
漱石の奥さんの名前が「鏡子」ですが本名が「きよ」です。
なので、この「きよ」に関する思慕は、漱石の「アイラブユー」と思ってもいいでしょう。
漱石の孫である夏目房之介は
小説『坊っちゃん』の主人公を暖かく見守る下女・清(きよ)について、鏡子の本名がキヨであることに注目して、この作品が漱石から鏡子に宛てたラブレターだったのではないか―wikipedia より
と指摘しています。
とはいえ、秋の夜長、中秋の名月は過ぎても、月見は引き続き楽しみたいものですね。
きょうの日めくり短歌は、中秋の名月にちなんで、夏目漱石の俳句をご紹介しました。
それではまた!
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