ゆびというさびしきものをしまいおく革手袋のなかの薄明 手袋の短歌【日めくり短歌】  

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ゆびというさびしきものをしまいおく革手袋のなかの薄明 手袋の短歌【日めくり短歌】

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きょうは手袋の日、早くも朝晩は手を包むものが欲しくなりましたね。

「手袋」と聞くと、なんとなく気持ちが和らぐのはなぜなのでしょうか。

今日の日めくり短歌は、手袋の短歌をご紹介します。

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ゆびというさびしきものをしまいおく革手袋のなかの薄明

読み:ゆびという さびしきものを しまいおく かわてぶくろの なかのはくめい

作者:

杉崎恒夫 歌集「パン屋のパンセ」

この短歌の意味

この歌の”意味”は、訳すのが難しいし、そもそも、短歌は詩なので、”意味”があるわけではありませんね。

「ゆびというさびしきもの」

作者は「ゆびというさびしきもの」と感じている。そして、そのさびしさを、しまっておく。

ここでは、その寂しさが「指」に仮託されているので、しまう場所は「革手袋」の中ということになる。

「ゆびという」の部分には、自身の体の一部への客体化があります。

「ゆび」は誰にとってもゆびなので、「というもの」とわざわざいう必要はありません。ここはどちらかというと、「『さびしさというもの』のある指を手袋にしまう」というべきなのです。

しかし、作者はそれを逆にしています。作者が本当に客体化して、自分から切り離して歌に登場させているものは、実は自身の「さびしさ」の方なのです。

手袋のなかにあるもの

手袋の中、そこには、薄明がある。

これは「はくめい」と読み、言葉の意味は、「日の出前、日の入り後の、天空のぼんやりした明るさ」を指します。

作者は、天文関係の職業をしていたので、身近な言葉でもあり、それゆえに明るさにも敏感だったのでしょう。

言葉で「薄明」と切り取って初めて、人はそのほのかな明るさに気が付きやすくなります。

歌が詠まれたのは、日の出前だったのかもしれません。

作者は天文台に夜に勤めていて、実際にも気温の下がる冬の夜明け前は手袋をして仕事をしていたのかも知れません。

また実際にも夜勤中は一人だったのかも知れないし、夜明け前にたった一人で起きている、そのときの「さびしさ」を思い起こしているのかもしれません。

遠くの空に見える薄明、それと同じものが、寂しさを誰にも告げずにねじ込んだ手袋の中、手が暖かさを感じると同時にふっと見えてくる。

この歌の最も良いところは、薄明の視覚と、手袋の体感の感覚的なところが盛り込まれているところです。

そして、一首は、作者が自分のいる場において、そこに見るいろいろなものを組み合わせながら、一つの詩を作り上げる内面の過程が伝わってくるかのようです。

歌の表記、ひらがなと漢字のある上句と下句の対比、漢語の「はくめい」と体言止めの音韻の変化との両方を、目で見てさらに音を読んでみて感じてみてください。

じっくり読めば読むほど、短歌の良さが深く伝わるようになると思います。

斎藤茂吉の短歌「暁の薄明に」

また、最後に、斎藤茂吉の短歌

「暁の薄明に死をおもふことあり 除外例なき死といへるもの」

を思い出すことも書き添えておきたいと思います。

杉崎氏は90歳になっても歌を詠んでおり、自らの「命』に関する同じテーマの歌も見られます。

星空がとてもきれいでぼくたちの残り少ない時間のボンベ

ぼくの去る日ものどかなれ 白線の内側へさがっておまちください

いくつかの死に会ってきたいまだってシュークリームの皮が好きなの

いわゆる斎藤茂吉の本歌取りだとすると、茂吉の方は、「死」を含む下句で終えているのに対し、杉崎の歌は「薄明」の体言止めで終えています。

そして「さびしきもの」という主観句によって、その心情は杉崎の歌の方が鮮明です。ここに大きな違いがあります。

 

「てぶくろの日」

手袋の日は、10月29日と、11月23日とふたつあります。

それぞれ制定元が違い、前者は、総合手袋メーカーの株式会社東和コーポレーションが制定。

正確にはきょうは、作業用手袋の方です。

「てぶくろの日」10月29日 

福岡県久留米市に本社を置く総合手袋メーカーの株式会社東和コーポレーションが制定。

日付は「て(10)ぶ(2)く(9)ろ」(手袋)と読む語呂合わせと、素手で行う作業がつらくなり、手袋をし始める時期に入ることから。手を使うことで進化してきた人類。そんな大切な手を守る作業用手袋にもっと関心を持ってもらうことが目的。

「てぶくろの日」11月23日

1981年(昭和56年)に日本手袋工業組合が制定。

これから手袋が必要になる季節に向けて、祝日の「勤労感謝の日」を記念日とした。キャッチフレーズは「愛を贈ろう」で手袋のPRが目的。

 

手袋の短歌一覧

手袋の短歌一覧をこちらにまとめます。

今日1日に、ツイッターで配信したものです。

いつまでの子の手のひらを知りゐしか革手袋を送りたけれど

作者:米川千嘉子『吹雪の水族館』

両耳に手袋をあて温めおり風の歌聴くかたちにも似て

作者:俵万智

灰色の手袋を買ふ この国のいたくぶあつき降誕祭に

作者:笹井宏之

 

薬指 くわえて手袋脱ぎ捨てん傷つくことも 愚かさのうち

作者:穂村弘

日溜りに革手袋が五指をまげ干されていたり さらば岸上

作者:福島泰樹

膝の上(へ)にひらけば雪野手ぶくろを買ひにちひさき狐が走る

作者:春畑茜

雪であることをわすれているようなゆきだるまからもらうてぶくろ

作者:笹井宏之『歌集 てんとろり』

 

人恋ふる夜明けの部屋にみづみづと春の花木となりし手袋

作者:秋山佐和子

 

きょうの日めくり短歌は、手袋の短歌をご紹介しました。

これまでの日めくり短歌一覧はこちらから→日めくり短歌




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