会津八一の忌日にちなみ会津八一が、斎藤茂吉に贈った短歌5首を紹介します。
斎藤茂吉が贈った自分の歌集「暁紅」に感銘を受けて会津八一が詠んだものです。
きょうの日めくり短歌は、会津八一の短歌をご紹介します。
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会津八一が斎藤茂吉に贈った短歌5首
会津八一が、斎藤茂吉に贈った短歌5首です。
斎藤茂吉が自分の歌集「暁紅」を送ったところ、会津八一はそれに感銘を受け、6首を詠んだと伝えられています。
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あめつちにわれひとりゐてたつごときこのさびしさをきみはほほえむ 会津八一の短歌
斎藤茂吉に歌集「暁紅」を贈られた詞書
詞書には以下のように
七月二十九日さきに童馬山房主人より贈られし歌集「暁紅」をとり出して ふたたび読みもてゆくに感歎ますますふかし こえて五日この五首を記して
その時読んだ6首は箱根強羅にいた斎藤茂吉に送られ、そのうち5首が、のち「寒燈集」の「山精(すだま)」に収録されています。
あめつち の いかなる ちから あともひて
この ひとまき の われ に せまれる
漢字表記:天地の如何なる力あともひてこの一巻の我に迫れる
作者と出典
会津八一(あいづやいち)
歌集「寒燈集」「山精(すだま)」
歌の意味
天地のどのような力に率いられて、この一巻の歌集が私の心に迫ってくるのだろう
「あともふ」は、伴ひ率ゆるの意。
解説
斎藤茂吉に送られた「暁紅」に深く感銘を受けた様子が伝わります。
「いかなるちから」に、大変大きな感動がもたらされたことが表されているのです。
あしびき の やま の すだま と こもり ゐて
よみ けむ うた か さよ の くだち を
漢字表記の試案:あしびきの山の山精と籠りゐて詠みけむ歌かさ夜のくだちを
作者と出典
会津八一(あいづやいち)
歌集「寒燈集」「山精(すだま)」
歌の意味
山の精霊となって山にこもって詠んだ歌なのだろうか、夜もふけてから
解説と鑑賞
「山精(すだま)」とは、八一の造語らしく自註には、
「すだま」と訓むべし。山霊、魑魅などいふに等し
とあります。
この背景には、斎藤茂吉がいたところが、強羅山荘(ごうらさんそう)という、山の中の別荘と伝え聞いていたからなのでしょう。
歌が詠まれた背景と、歌を詠んだ作者である茂吉に思いを馳せているのです。
ふりさけて おもへば とほき いにしへ ゆ
かかる きはみ に たれ か うたひし
漢字表記の試案:振りさけて思へば遠き古ゆかかる極みに誰か詠ひし
歌の意味
ふりかえってみれば、遠い昔かこのような歌の高みの極みに誰が詠ったであろうか
解説と鑑賞
詞書の「ふたたび読みもてゆくに」には、会津八一が繰り返し、「暁紅」を読んでは、その感動をまた自らも歌に表そうとしていたことがうかがえます。
いにしへ を わが する ごとく のち の よ は
きみ を こほしみ たへ がて に せむ
漢字表記の試案:古を我がするごとく後の世は君を恋ほしみ堪え難てにせむ
歌の意味
古い時代の歌に私がそう思うように、これから後の時代の人は、これらの歌を詠んだ歌を通して君を抑えがたく恋しく思うことだろう
解説と鑑賞
会津八一のいう「古 (いにしえ)」というのは、万葉集のことです。
八一の歌には、万葉集の語法がみられ、この歌集を踏襲しながら歌を詠んでいたのですが、それと同じくらい、斎藤茂吉の歌を素晴らしく思う気持ちが伝わります。
いかで われ ひとたび ゆきて うつしみ の
きみ と あひ みむ あき の ひかげ に
漢字表記の試案:いかで我一度行きてうつしみの君と相見む秋の日陰に
歌の意味
どのようにか一度出かけて行って、本物の君に会いたいものだ。この秋の美しい日の下に
解説と鑑賞
斎藤茂吉が実際に会津八一と面談がかなったのは、1945(昭和20)年、青山の堂馬山房においてでした。
防空壕の中で酒を酌み交わしたと伝えられており、八一が記号を残した作品があります。
いずれの歌も、会津八一の斎藤茂吉に対する深い尊敬と賛辞が惜しみなく表されています。
八一は、いわゆる歌壇にも派にも属さなかったので、八一の歌に好意的な批評をした茂吉との間に深いつながりが生まれたのです。
きょうの日めくり短歌は、会津八一の忌日にちなみ、会津八一が斎藤茂吉に贈った短歌をご紹介しました。
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