幼きは幼きどちのものがたり葡萄のかげに月かたぶきぬ きょうは、歌人の佐佐木信綱の忌日です。
きょうの日めくり短歌は、佐佐木信綱の短歌をご紹介します。
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幼きは幼きどちのものがたり葡萄のかげに月かたぶきぬ
読み:おさなきは おさなきどちの ものがたり ぶどうのかげに つきかたぶきぬ
作者
佐々木信綱 1872~1963
一首の意味
幼いものたちは幼いもの同士で語らいが尽きない様子、その葡萄の木の陰に月が沈んでいく頃となるまでに
語句の解説
- 幼き…形容詞の基本形は「幼し」。「幼き」は名詞。幼い人たちの意味
- どち…接尾語 意味は「たち」
- 月かたぶきぬ…「かたぶく」は、(太陽や月が)沈みかけるの意味。古くからある用法
解説と鑑賞
佐々木信綱の短歌でよく知られた作品です。
幼い者たち、おそらく信綱の子どもや孫たちであろう彼らがいつまでも話し込んでいると時間が経って、戸外にある葡萄棚の向こう側の陰に月が沈んでいくのが見えるという情景が歌の内容です。
「葡萄のかげに」というのは、歌の通りだと「月」ということになりますが、子どもたちの話しているそばに、子どもを取り巻くように生えているように思えます。
葡萄棚の緑の葉陰に子どもたちが配置されているかのようです。
また、彼らが話し込んでいるのが、庭のようなところであって、作者は家の中の窓から見ている、その立ち位置や、月をも俯瞰できる距離感、奥行きのある構図が表されています。
それらが、作者の視点を加えることで初めて、一枚の絵画のように見渡せるものとなっています。
幼い人たちへの温かいまなざしも感じられる、ほのぼのと美しい作品です。
佐々木信綱の他の短歌
山の上に初春きたる八百(やほ)あまり八十(やそ)のみ寺は雪に鐘(かね)打つ
ぽつかりと月のぼる時森の家の寂しき顔は戸を閉(と)ざしける
ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの雲
まつしぐら駒(こま)走らして縦横(じゆうわう)に銀の鞭(むち)ふる秋風の人
万葉集巻二十五を見いでたる夢さめて胸のとどろきやまず
いつまでか此のたそがれの鐘はひびく物皆うつりくだかるる世に
道の上に残らむ跡(あと)はありもあらずもわれ虔(つつし)みてわが道ゆかむ
山の上にたてりて久し吾もまた一本(いつぽん)の木の心地するかも
白雲は空に浮べり谷川の石みな石のおのづからなる
山にありて山の心となりけらしあしたの雲に心はじまる
春ここに生るる朝の日をうけて山河草木(さんかそうもく)みな光あり
あまりにも白き月なりさきの世の誰(た)が魂(たましひ)の遊ぶ月夜ぞ
人いづら吾(わ)がかげ一つのこりをりこの山峡(やまかひ)の秋かぜの家
佐々木信綱とは
佐々木信綱 1872-1963
歌人・国文学者。三重県生。歌人佐佐木弘綱の長男。幼少より父に歌学・国学を学び、のち高崎正風に就く。父の歿後竹柏会を組織する。また歌学者・万葉学者としての業績も大きい。学士院会員。芸術員会員。文化勲章受章。昭和38年(1963)歿、92才。
「心の花」創設者。歌人の佐々木幸綱は孫。佐佐木頼綱 佐佐木定綱はひ孫にあたる―コトバンク他より
きょうの日めくり短歌は、佐々木信綱の忌日にちなみ、佐々木信綱の短歌をご紹介しました。
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それではまた!
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