筑波嶺に雪かも降らるいなをかも愛しき子ろが布乾さるかも 東歌  

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筑波嶺に雪かも降らるいなをかも愛しき子ろが布乾さるかも 東歌

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筑波嶺に雪かも降らるいなをかも愛しき子ろが布乾さるかも

万葉集の東歌の有名な和歌、代表的な短歌作品の現代語訳、句切れと語句などを解説します。

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筑波嶺に雪かも降らるいなをかも愛しき子ろが布乾さるかも

読み:つくばねに ゆきかもゆらる いなおかも いとしきころが にのほさるかも

作者と出典

『万葉集』 東歌 3351 作者不詳

歌の意味と現代語訳

筑波の山に雪でも降ったのだろうか、そうではないのか。愛しい娘が布を干しているのだろうか

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句切れと表現技法

  • 3句切れ
  • 「かも」の反復

東歌の方言

  • 「降らる」「乾さる」は東国語で、それぞれ中央語の「降れる」「乾せる」の方言にあたる
  • 「布」の読みは「ニノ」で、中央語の「ヌノ」
  • 「児ろ」の「ろ」は親愛の意の方言

語の意味

  • 筑波嶺…筑波山の別名
  • かも… 「だろうか」の意味 以下参照
  • かなしき…「いとしい」の意味。漢字は「愛しき」がある
  • 児ろ…女性を親しみを込めて呼ぶ言葉
  • 布乾す…洗濯物を干す 「布」の読みは方言「ニノ」

「いなをかも」の品詞分解

「いなをかも」…「いな」は「否」(そうではない)+「を」は「諾」(そうだ)の意味で迷っている様子を表す

「かも」解説

助詞「」に詠嘆の助詞「も」が付いたもの。体言または活用語の連体形を承ける。

詠嘆を含んだ疑問(あるいは疑問を含んだ詠嘆)をあらわす

 

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解説と鑑賞

東歌の「常陸の国」と題する歌の2首目の和歌。分類は「雑歌」だが、相聞の内容も含まれている。

上句、「筑波嶺に雪かも降らる」と下句「愛しき子ろが布乾さるかも」の二つの対の推測を、間に「いなをかも」を挟む構成となっている。

「いなをかも」は「否」かまたは「諾」かで、「雪かそうでないのか。愛しい子の洗濯ものか」の両方を迷う様子を表す。

雪を見て、雪の白さから、愛しい子の乾す布を連想する。「かなしき児ろ」には恋愛の心情もこもっているが、労働歌や民謡という解釈も成り立つとされている。

3句の「いなをかも」は一首の調子を「かも」の音韻で整える点でも役立つし、下句への転換もなす役割をしている。

筑波山の雪と布の連想の順序

『万葉の歌人と作品』では、「判断が躊躇されることを詠うのが一首の趣意」と解説している。

従って、「筑波山の雪を見て愛しい子の布を思い浮かべた」なのか、「布が干してあるところから、雪なのだろうか。いやそうではなくて」とする、2つの説がある。

斎藤茂吉の解説(以下)では、「筑波山の雪→布」という原始的な発想と解釈している。

斎藤茂吉『万葉秀歌』の解説

古樸な民謡風のもので、二つの聯想も寧ろ原始的である。それに、「降れる」というところを「降らる」と訛り、「乾せる」というところを「乾さる」と訛り、「かも」という助詞を三つも繰返して調子を取り、流動性進行性の声調を形成しているので、一種の快感を以て労働と共にうたうことも出来る性質のものである。

「かなしき」は、心の切に動く場合に用い、此処では可哀くて為方のないという程に用いている。「児ろ」の「ろ」は親しんでつけた接尾辞で、複数をあらわしてはいない。この歌はなかなか愛すべきもので、東歌の中でもすぐれて居る。

なお、斎藤茂吉の『万葉秀歌』では、「いなをかも」の「を」は「調子の上で添えたもの。文法では感嘆詞の中に入れてある。」と解説されているが、この点は誤りと思われる。

 




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