多摩川にさらす手作りさらさらに何そこの児のここだ悲しき 東歌の労働歌  

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多摩川にさらす手作りさらさらに何そこの児のここだ悲しき 東歌の労働歌

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多摩川にさらす手作りさらさらに何そこの児のここだ悲しき

万葉集の東歌の有名な和歌、代表的な短歌作品の現代語訳、句切れと語句などを解説します。

この歌は、多摩川で布をさらす女性たちが作業をしながら歌った労働歌とされています。

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多摩川にさらす手作りさらさらに何そこの児のここだ悲しき

読み:たまがはに さらすてづくり さらさらに なにそこのこの ここだかなしき

作者と出典

万葉集14巻 3373

現代語訳

多摩川にさらす手作り布の”さら”ではないが、さらさらにどうしてこの子のことを、こんなにも愛しく感じるのだろうか

 

万葉集の東歌一覧はこちらから

万葉集の原文

多麻河伯尓 左良須弖豆久利 左良左良尓 奈仁曾許能兒乃 己許太可奈之伎

句切れと修辞

  • 句切れなし
  • 係り結び

序詞(じょことば)

・2句までの「多摩川にさらす手作り」は、3句の「さらさらに」を導き出す同音反復型の序詞。

係り結び

「…そ…悲しき(形容詞連体形)」が係り結び

解説:
序詞とは 枕詞との違いと見分け方 和歌の用例一覧

係り結びとは 短歌・古典和歌の修辞・表現技法解説

語彙と文法

・多摩川・・・東京の多摩川 古代は麻布が特産だった

・手作り・・・手織りの布のこと

・さらさらに・・・さらにの繰り返し「さらに、さらに」の意味

・なにそ・・・「何」+「ぞ」 強意の助動詞、「ぞ」の清音

・ここだ・・・「ひどく たいへん」の意味の副詞

万葉集の歌一覧まとめ 詳しい解説





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解説と鑑賞

東歌(あずまうた)相聞に武蔵国として載せられている作品。

歌の背景 多摩川の作業

多摩川は東京都の多摩川で、当時は麻布が多く作られていた。

手作りの布は、漂白するために水に晒され、日にさらして漂白して白く作られた。

これを麻布の洗曝(せんばく)作業といい、その作業が歌に盛り込まれているが、それは「さらす」の言葉とのつながりがあるためである。

序詞「多摩川にさらす手作り」

「多摩川にさらす手作り」はその次の「さらさらに」を導き出すための序詞。

「さらす手作り」でまず、「さら」の音を出し、そのあとにさらに「さらさらに」と、「さら」を2度重ねた畳語を入れて、音の響きを流れるように作り、ここまでを単純な音の繰り返しに保つことで、その後に来る主題の意味を強めている。

作者の心情のポイントは

作者の心情は、恋愛感情で、つまりは言いたいのは「この子が愛しい」ということなのであるが、上の通り、3句までの「さら」の繰り返しの後にこの語を持ってくることで、強調の効果を狙う。

そしてそのあとの、「なにそ」「ここだ」の副詞(句)で、さらにその気持ちが強められて表現されるという構成になっている。

「なにそ」「ここだ」の強調

「愛しき」は「かなしき」とよんで「いとしい」こと、相手が好きなことを表す言葉だが、その気持ちの自発的なところ、自分の意の及ばない思慕の強さを自問自答する。

「なぜこんなにも愛しいのだろう」と、自分とその思慕の気持ちとを、主客分離して表すことで、気持ちに焦点を当てる。

そして思いの強さが、自らの意志の及ばないものとすることで、自らの心情をいぶかしむかたちで恋情の激しさを表している。

万葉時代の労働歌の一つ

この歌は、多摩川で布さらしの労働に伴って歌われた歌、労働歌の一つとされる。

布さらしの作業は女性たちの仕事であったらしく、この歌に合わせて、皆が、皮に入って布を川の水の中で波打たせつつ歌ったと想像できる。

他の労働歌には「稲つけばかかる我が手を今夜もか殿の若子が取りて嘆かむ」があるので、合わせて味わいたい。




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