あらざらむこの世のほかの思ひ出に今ひとたびの逢ふこともがな
百人一首に採られた和泉式部の有名な和歌、現代語訳と句切れや修辞法の解説と鑑賞を記します。
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あらざらむこの世のほかの思ひ出に今ひとたびの逢ふこともがな
現代語の読み:あらざらん このよのほかの おもいでに いまひとたびの おうこともがな
作者と出典
作者:和泉式部(いずみしきぶ)
出典:百人一首56番 後拾遺和歌集
現代語訳:
もうすぐ死んでしまうこの世、あの世へ行く思い出に 今一度お会いしたいものです
・・
語と文法
語と文法の意味や解説です
「あらざらむ」の品詞分解
- あら…動詞「あり」の未然形 意味は「在る・生きる」
- ざら…基本形「ざり」。打消しの助動詞
- む…未来の助動詞
「この世のほか」
この世…現世 「ほか」はそれ以外「あの世、死後の世界」を指す
いまひとたびの
ひとたび…一度
思い出もがも
「思い出もがも」の品詞分解
もがな…[終助]《終助詞「もが」+終助詞「な」から。 上代語》
名詞、形容詞および助動詞「なり」の連用形、副詞、助詞に付く。
上の事柄の存在・実現を願う意を表す。
意味は「…があればいいなあ。… (で)あってほしいなあ」
句切れと修辞法
- 句切れなし (初句切れという解釈もある)
解説
百人一首に採られた和泉式部の有名な和歌。
「心地(ここち)例ならず侍(はべ)りける頃、人のもとにつかはしける」との詞書がある。
「いつもとは違った悪い気分の時に、恋人に贈った歌」との意味で、死後の世界に思いを馳せて、恋人に逢うことを訴えている。
歌の背景
和泉式部はこの時病に伏せっており、自らの死期を悟って、相手に訴えた歌と言われているが、命を詠み込んだ歌は他にもある。
自分の短い命を縦に、間遠くなっている相手に、会いに来るようにと迫る歌で、愛情の強さと共に、作者の一種の我の強さもうかがえる。
印象的な初句
「あらざらむ」は、「私はもうすぐ死ぬ」という意味なので、これを初句に置くということは、最初から詠み手に強い印象を与える。
一首は柔らかい読みぶりだが、初句に相手の心をつかんで離さないものがあり、思い切った歌い出しとなっている。
4句の「いまひとたびの」も、初句に次いで印象の強い部分で、「これが最後」ということであるので、その点も、単に会いに来てください、ということとは違う。
このように送られて従えない人はいなかったはずである。懇願を越えて、ほぼ命令であるところに和泉式部の意志の強さがうかがえる。
そして、これは短歌であるので、そのような思い切った表現とその強さが、和泉式部の情熱と愛執の歌の魅力でもある。
歌人としての技巧はもちろんだが、実際に恋愛の経験の多い人でなければ詠めない歌でもあるだろう。
和泉式部の他の和歌
物おもへば沢の蛍も我が身よりあくがれ出づる魂かとぞみる 和泉式部
黒髪の乱れも知らずうち臥せばまづかきやりし人ぞ恋しき
今はただそよその事と思ひ出でて忘るばかりの憂きふしもがな
捨て果てむと思ふさへこそかなしけれ君に馴れにし我が身とおもへば
今宵さへあらばかくこそ思ほえめ今日暮れぬまの命ともがな
暗きより暗き道にぞ入りぬべき遥かに照らせ山の端の月
白露も夢もこの世もまぼろしもたとへていへば久しかりけり
とどめおきてだれをあわれと思ふらむ子はまさるらむ子はまさりけり