ほのぼのと春こそ空に来にけらし天の香具山霞たなびく
後鳥羽院の新古今集収録の和歌の現代語訳と、文法や修辞、語の意味を解説・鑑賞します。
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ほのぼのと春こそ空に来にけらし天の香具山霞たなびく
読み:ほのぼのと はるこそそらに きにけらし あまのかぐやま かすみたなびく
作者と出典
太上天皇(だじょうてんのう)後鳥羽院
新古今集2
現代語訳と意味
ほのぼのとまさしく春は空に来たなあ。あのように夜明けの天の香久山に霞がたなびいている
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語句と文法
・ほのぼのと…夜の明けるさまや、霞がたなびき、霞がこめる様子を表す象徴辞
・こそ…強意の係序詞
・空…香久山の天と関わりがある 以下解説
「けらし」の品詞分解
・けらし…「ける+らし」のつまった形。
・「ける」過去の助動詞「けり」の連体形
・「らし」…推量の助動詞
・天の香久山…奈良県にある山で大和三山のひとつ。大和国の歌枕
句切れと修辞
・3句切れ
・本歌取り
解説と鑑賞
後鳥羽院による、新古今集2首目の歌。
万葉集の
ひさかたの天の香久山この夕べ霞たなびく春たつらしも (巻10-1812) 柿本人麻呂
が本歌とされている。
どちらも、天の香久山の風景を詠んでいるが、本歌は「ほのぼのと」が夜明けを示し、本歌の「夕べ」と時刻を異にしている。
本歌では、夜明けの光の中に輝いている山とその風景が主題となる。
また、「空に」を置くことで、明けゆく空と、「天の香久山」の「天」を強調し、大空に聳えたつような山の高さを暗示している。
天の香久山は、天から降下したという伝承がある山であり、そのイメージを強く踏まえていると言える。
後鳥羽院について
鎌倉時代の第82代天皇。1180~1239年 在位1183-98。
詩歌・書画にの他、特に歌道に優れ、和歌所を設置し、歌合も盛んに催し、藤原定家らに「新古今和歌集」を作らせた。
隠岐の代表作として知られる『遠島御百首』をはじめ、800首近い歌が残されている。
後鳥羽院の他の歌
人もをし人も恨めしあじきなく世を思ふゆえに物思ふ身は 後鳥羽院
奥山のおどろが下も踏み分けて道ある世ぞと人にしらせむ
我こそは新島守よ隠岐の海の荒き波風心して吹け
命あれば茅が軒端の月もみつ知らぬは人の行くすえの空
深緑あらそひかねていかならむ間なくしぐれのふるの神杉