てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った 安西冬衛の詩「春」の解釈  

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てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った 安西冬衛の詩「春」の解釈

2022年2月7日

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「てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った」 一度読んだら忘れられない、安西冬衛の詩「春」。

さまざまな説があるこの詩の解釈をまとめます。

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安西冬衛の詩「春」

てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った

安西冬衛の詩「春」。一行だけのこの詩は、短くても一度読んだら忘れられない不思議なイメージを持っています。

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有名な短詩「春」の解釈と鑑賞

安西冬衛の「春」を鑑賞しながら、これまでの解釈と分析をまとめます。

韃靼海峡とは

この詩の中でも特に印象深いのが「韃靼海峡」の地名です。

これは間宮海峡のことで、「韃靼」は、元々モンゴル系部族タタール人のことをいいます。

間宮海峡は日本での呼び名で、諸外国は「韃靼海峡」と記載されるようです。

このいくらか聞きなれない呼び名が、エキゾチズムを呼び起こすこととなっています。

「だったん」の音と表記

韃靼の漢字は、画数が多く、一行詩の中では際立って印象が強い。

それが、海峡の広さ大きさ、断崖の硬質の岩や陸のイメージにもつながります。

音の面では、、「だったん」の、促音の弾むリズムと、濁音が、詩の音調の大きなアクセントとなっています。

韃靼海峡の実際

この詩には海のイメージがつきまとうのですが、wikipediaによると、

長さはおおよそ660km。最狭部の幅は約7.3km、深さは最浅部で約8m。冬の間は凍結し、徒歩で横断することも可能である。

となっています。

韃靼海峡の場所

「てふてふ」の音と読み

「てふてふ」というのは、蝶のこと。

「てふてふ」は旧仮名での表記で、読みはその表記で「ちょうちょう」となるのですが、読みは自由のため「てふてふ」とそのまま読んでもよさそうです。

いずれにしても「てふてふ」の表記が、蝶のかすかな羽ばたきの様子と音をも想像させるものともなっています。

「韃靼」に対して「てふてふ」と比べると、前者の大きく堅牢な響きとイメージ、後者の小さく脆弱で柔らかいイメージが、音によって裏打ちされていることが感じ取れます。

「渡って行った」の結び

「渡って行った」の最後の部分は、促音が二つ含まれ、これは「韃靼」に続く3つ目の促音です。

3つの促音に挟まれた「てふてふ」、そうなることで、蝶の視覚像も、よりいっそう、とらえどころのない海峡の上に浮いているイメージが強まるでしょう。

 

安西冬衛の自解

作者安西冬衛自身が

詩人としての自分の位置を決定した紀念の古典である

と述べているように自他共に認める代表作となっています

そして、この詩に関しては、作者安西冬衛自身の自註と自解が多くありますので、それをまとめます。

蝶は家紋から

「蝶」というのは、安西の家に伝わる家紋であったようです。

注釈をのべた「自作自解『春』」には、

春のサイドライトとして、我が家の紋章が元来蝶々であり、私の少年時代黄色のアゲハチョウの象嵌された父祖伝来の鉄砲があった由緒。

 

「韃靼海峡」の元となる景色

さらに韃靼海峡に関しては、この元となった風景が、大連に実際にあったところとして、

電気遊園の樹林に沿って伏見台へ登ってゆく道は、雑誌『亜』時代の私が初期の作品に好んで用いたモノグラフィーで、坂を上り詰めると景観がたちまち一変し、眼科を塞ぐ街を穿って深く屈曲した大連湾がリボンの如く展開する。(中略)韃靼海峡と蝶のアイデアはこの地理から採集したものである

さらに、詩誌『亜』第24号では、この詩と関連する、または同一のイメージと思われる

韃靼のわだつみ渡る蝶かな

という俳句がみられ

間宮海峡が50年後、陸地に変化するという青褪めた夢。(大正15年10月5日 大阪毎日新聞 所載) 嘗て私の空想(ロマンス)はこの青褪めた海上に一匹の蝶々を駐させた。

としています。

安西冬衛とは

作者、安西冬衛、読みはあんざい ふゆえ。

1919年大連に渡り、以後15年間を大連で暮らしました。

1921年右膝関節炎のため右脚の切断を余儀なくされ、その療養中に詩作を開始。

1924年北川冬彦らと現代史のアバンギャルドとして活躍、現代詩に大きな影響を与えました。

新鮮な短詩の他、地理的好尚に富んだ知的マゾヒズム 独自の心象 とロマネスク,エロティシズムと諧謔などが、作品の特徴のキーワードとなっています。

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