短い詩は印象に残りやすく、憶えやすいものです。短い詩を参考に自分でも詩を書くことができます。
短いながら有名でよく知られた試作品をご紹介します。
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短い詩の種類
短い詩は憶えやすく親しみやすい詩で、1行詩から4行詩、それ以上のものも含まれます。
短い詩文でもっともよく知られるものは、俳句と短歌です。
これらは「定型詩」と呼ばれるものです。
※他の教科書の詩の解説は
教科書の詩 教材に掲載される有名な詩一覧
短い詩の正式な呼び名
その他の文芸誌で、短い詩の正式な呼び名は、「短詩」または「短編詩(たんぺんし)」といいます。
短い詩に対して、長いものは「長編詩」と呼ばれて区別されます。
短い詩であるから長い詩に比べて、簡単であるとか劣るといったことはありません。
短い詩には短いなりの理由と必然があります。
短編の詩でよく知られる有名なものをご紹介します。
山村暮鳥の詩「雲」
「雲」山村暮鳥
おうい雲よ
ゆうゆうと
馬鹿にのんきさうぢやないか
どこまでゆくんだ
ずつと磐城平の方までゆくんか
上は、山村暮鳥の「雲」という詩です。
5行しかない短い詩です。
「磐城平」は福島県の大きな町、今のいわき市のことです。
雲を見てその様子と、雲の行く先に思いを馳せている作者の様子が伝わります。
※この詩について
「冬眠」 草野心平
冬眠
●
上は、草野心平(くさのしんぺい)の詩です。
草野新平は、蛙を主人公にした詩を書く詩人です。
四角い枠の中に入っているのが、詩の本文ですが、文字ではありません。
これでも立派な詩です。
この本文は、冬眠に入った蛙の様子を視覚的に表しているのでしょう。
「雪」三好達治
雪 三好達治
太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。
日本語の最も美しい詩にあげたい三好達治の2行だけの詩です。
「太郎」「次郎」という名前は、屋根に降る雪と相まって日本人の郷愁を誘います。
【解説】雪 三好達治「太郎を眠らせ太郎の屋根に雪ふりつむ」の表現技法
「耳」コクトー 堀口大學訳
「耳」
「私の耳は貝の殻 海の響きを懐かしむ」
作者はフランスの詩人ジャン・コクトー 。
コクトーのこの短い一行詩は、堀口大學の名訳によって、日本でも有名な作品となりました。
解説記事:
私の耳は貝の殻 海の響きを懐かしむ『耳』コクトーの原文と堀口大學の詩
「素朴な琴」八木重吉
「素朴な琴」八木重吉
この明るさのなかへ
ひとつの素朴な琴をおけば
秋の美しさに耐えかねて
琴はしづかに鳴りいだすだらう
八木重吉の有名な4行詩。
短い詩ながら、起承転結と擬人化された琴の鳴りだす結末が見事に美し詩です。
解説記事:
【解説】「素朴な琴」八木重吉の詩
安西冬衛「春」
てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った
安西冬衛の一行詩。
作者みずからが「詩人としての自分の位置を決定した紀念の古典である」という通り、安西の代表作品となっています。
一行詩ですが、このイメージは一度読んだだけで忘れられないものを持っています。
解説記事:
てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った 安西冬衛の詩「春」の解釈
「およぐひと」萩原朔太郎
およぐひと 萩原朔太郎
およぐひとのからだはななめにのびる、
二本の手はながくそろへてひきのばされる、
およぐひとの心臓(こころ)はくらげのやうにすきとほる、
およぐひとの瞳(め)はつりがねのひびきをききつつ、
およぐひとのたましひは水のうへの月をみる。
有名な詩集「月に吠える」より。
水泳をする人の肢体と、それから心、さらに魂にいたるまで、詩人の鋭い凝視が光る詩です。
視覚的な描写は比喩を交えて、その心のありように至ります。
短いながら構成も比喩もすぐれた詩です。
また、ひらがなを多用して、泳ぎと水のなめらかさをも調べによって伝える工夫が見られます。
解説記事:
およぐひと 萩原朔太郎の詩
「二月の小舟」吉野弘
二月の小舟 吉野弘
冬を運び出すにしては
小さすぎる舟です。春を運びこむにしても
小さすぎる舟です。ですから、時間が掛かるでしょう
冬が春になるまでは。川の胸乳(むなぢ)がふくらむまでは
まだまだ、時間が掛かるでしょう。
2行4連の詩。
春浅い季節、時の移り変わりを先導するものとして、「小舟」という比喩が用いられています。
※吉野弘の代表作は
吉野弘「夕焼け」代表作詩の鑑賞と解説 受難者の心の痛みへの同一化
「もくせい」 金子みすゞ
もくせいのにおいが
庭いっぱい。おもての風が、
ご門のとこで、
はいろか、やめよか、
そうだんしていた。
金子みすゞは童謡の詩人。身近な題材の素朴な詩をたくさん書きました。
もくせいというのは、金木犀を思い浮かべる人もいるかもしれませんね。
金子みすゞ「こだまでしょうか」薄幸な童謡詩人の生涯【日めくり短歌】
「人生遠視」 高村光太郎
「人生遠視」 高村光太郎
足もとから鳥がたつ
自分の妻が狂気する
自分の着物がぼろになる
照尺距離三千メートル
ああこの鉄砲は長すぎる
高村光太郎の有名な詩集『智恵子抄』の中にある短い詩です。
妻の精神的な病という耐え難い不幸に、離人症のようなすべてが遠くに見えるような瞬間の漢字を、「遠視」として表現しています。
高村光太郎の『レモン哀歌』は『智恵子抄』の代表作、こちらも是非お読みください。
以上、読んでおきたい短い詩を10篇に限ってご紹介しました。