わが背子は物な思ひそ事しあらば火にも水にもわれなけなくに 安部女郎の万葉集の代表的な和歌を鑑賞、解説します。
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わが背子は物な思ひそ事しあらば火にも水にもわれなけなくに
読み:わがせこは ものなおもいそ ことしあれば ひにも みずにも わがあらなくに
作者
安部郎女 万葉集 506
現代語訳
そんなに悩まないでくださいあなた。何かあれば、火でも水でもいとわない私がいますので
句切れと修辞
- 2句切れ
- 仮定法
語と文法
物を思う…悩む
事しあらば…「し」は強意の助詞。「ことがあれば」の意味。「事」は問題などを指す
なけなくに…ないことはないのだから 自分の存在を示している
解説と鑑賞
安部の郎女の相聞の歌2首のうちの2首目
一首の主題
男性への恋心を詠んだ後に、強い支持の気持ちを表している。
結句の「なけなくに」
「なけなくに」は、「ない+なくに」で、「なくに」は、他にも「われならなくに」(意味:わたしではないのに)など多数の用例がある。
ここでは「ない」ことを打ち消すので、「私がないわけではない→私がいるのだから」ということを強調して示すものとなっている。
結句にあるので、相手に語り掛けるような終わり方となっている。
一首目の歌
この前の2首一連の一首目の歌は
今更に何をか念はむうち靡きこころは君に寄りにしものを
〔巻四・五〇五〕 安倍女郎
であって、この歌では、物を思う、すなわち恋をめぐって思い悩む主語は、作者の女郎自身となっている。
既にあなたのことが好きだとわかっているのだから、今更思い悩むことがあろうか」というのが上の歌の意味である。
続く本歌は、相手に向かって、「悩むことはありませんよ」という内容だが、こちらも、悩みを払しょくするような強い恋の気持ちを表している。
斎藤茂吉の一首評 「万葉秀歌」より
(前の歌に続いて)女性の情熱を云っている。併しこれも女性の語気として受取る方がよく、此時代になると、感情も一般化して分かりよくなっている。―「万葉秀歌」より
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