近代短歌というのは、主に明治時代後半から昭和にかけて詠まれた短歌を指します。
近代短歌の特徴と成立についてわかりやすく解説します。
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近代短歌とは
近代短歌の「近代」は、「現代に近い」という意味で、明治時代後半の短歌革新以後、昭和に至る期間に詠まれた短歌を指します。
「歌合」が盛んにおこなわれた新古今集の時代が、日本の短歌の一つのピークであるとすれば、充実した芸術性の高い短歌が生まれたもう一つのピークが、近代短歌の時代といえます。
※近代短歌についての他の記事は
近代短歌はいつから
近代短歌は、短歌革新以後と考えられていますが、この「短歌革新」を行ったのは、歌人で俳人の正岡子規です。
明治の短歌革新
正岡子規は最初は俳句の革新を行い、次いで短歌に着目し、『歌よみに与ふる書』 を記しました。
それが、1898年、明治31年のことです。
正岡子規は、古典短歌とそれまでの歌を振り返って良いと思われる歌を推し、よくないと思われる歌を批判、新しい短歌の指針となるものを示したのです。
近代短歌の始まり
それを機会として、新しい短歌が序々に広まり始めました。
近代短歌の始まりは、記録されているものに関しては、この明治時代後半からだったといえます。
また、この「近代」とは、歴史で用いる時代区分の江戸時代とか室町時代とかの○○時代というのとは違います。
他に、似た言葉に「近世」や「上代」などがありますが、これらは全く違う時期を指しますので混同されないようにしてください。
近代短歌の広まり
その後は、正岡子規は新聞の投稿の撰者となり、紙上に掲載された短歌や、子規の歌論と指針を詠んだ様々な人が、同じスタイルの歌を詠むようになりました。
また、正岡子規のいう歌論に同調した人たちが集まって、アララギ派の短歌誌「アララギ」の前身となる「根岸短歌会」という短歌の集まりができました。
また、それには飽き足らない人々が、各自新しい歌を詠み始めました。
近代短歌の歌人
団体としては、正岡子規の後の『アララギ』のスタイルと歌人たち、その対極に置かれる与謝野鉄幹・晶子らの『明星派』がもっとも有名なものです。
それ以外の特に何派とはいわれずとも、若山牧水や北原白秋、石川啄木などの著名な歌人がいます。
彼らは独自に、それまでの古典短歌や特定のスタイルにとらわれることなく、自分の良いと思われる歌を、自由に詠み始めました。
それらを全部合わせた歌人と作品とが近代短歌という一時代を作ったといえます。
昭和の近代短歌
そこから、昭和に至るまで、アララギ派なら斎藤茂吉や島木赤彦、窪田空穂、木下利玄など、多くの歌人が活躍を続け、それまでの古典短歌にはない多くのすぐれた作品を生み続けました。
そして、近代短歌は、そのまま現代短歌へと受け継がれてきているのです。
なお、近代短歌の次は現代短歌ですが、その境目の時期についてははっきりしません。
これまでの解説書等によると、昭和40年代の歌人を含めたものがありますので、そのあたりが一つの目安となると思われます。
近代短歌の特徴
近代短歌の特徴をまとめると下のようになります。
・それまでの古典短歌にとらわれない新しいスタイル
・各歌人が(または派)の独自の基準や主義を採択
・集団性を離れて個性的で自由な表現
・花鳥風月の優雅な題材から生活の中の主題
・事物よりも作者の心情を重視
近代短歌の多彩なスタイル
近代短歌の特徴をあえて一言でいうと、歌人の数が多くスタイルが多彩であること。
古典短歌の時代なら、万葉集は集団性に一つの特徴があり、皆が同じ言葉や句を用いたり、本歌取りのように模倣されて詠まれた歌が数多くあります。
近代に入るとそれらの技法よりも個性が重視されるようになったためです。。
また、古今・新古今の時代には、掛詞や縁語などの和歌の技法が多く用いられているものがすぐれているとされましたが、
近代短歌はそのような一つの指針や基準にとらわれることはなく、それぞれの歌人、または派が新しい独自のスタイルを生み出しました。
それまでにはない新しい短歌、個性的な短歌を各人が目指したというところに大きな特徴があります。
近代短歌の作風
近代短歌の歌人とそれぞれの作風がどれくらい多岐に渡るかという例をあげてみます。
- 正岡子規 写実主義
- 与謝野鉄幹 浪漫主義
- 北原白秋 耽美派
- 若山牧水 自然主義的
- 石川啄木 社会主義的
各歌人の作風の印象から、おおむね上のような言葉で分別されることが多いですが、この場合の、○○主義というのは、歌人本人が述べたものではなく、けっして厳密なものではありません。
また、歌人によっても作風が推移したものがあり、あくまで便宜上の分類ですが、それにしても、古典短歌にはないめざましい広がりがあることがわかるでしょう。
古典短歌と近代短歌との違いについては、「近代短歌と古典短歌の違い」で解説します。