講堂で賛美歌歌う友達のピアスの穴を後ろから見る 小島なおの教材にも取り上げられた有名な短歌代表作品の情景を想像、鑑賞と感想を記します。
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講堂で賛美歌歌う友達のピアスの穴を後ろから見る
読み:こうどうで さんびかうたう ともだちの ぴあすのあなを うしろからみる
現代語訳
歌の通りの現代語訳となりますが、意味は
友だちの後ろに整列してじっと講堂で立って賛美歌を歌っているときに、友だちのピアスの穴の部分が、普通は見ない後ろ側から目に入ってきた
作者と出典
小島なお 『乱反射』
句切れと表現技法
・句切れなし
・現代語 口語短歌
解説
現代の歌人、小島なおの歌。
現代語で詠まれた歌なので、歌の内容はそのまま、情景を詳しく想像してみることとする。
ピアスの穴
ピアスというのは、耳飾りのことで、通常は飾りの部分を見せるための物で、裏側というのは、まずめったに見ることはない。
作者はふだんとは違ったアングルで物を見るということの面白さに気が付き、それを歌に詠んだところに主題がある。
なお、作者の解説では、この時は、友人は「ピアスを外していた」ということである。
「賛美歌」と「ピアス」
「賛美歌」と「ピアス」の取り合わせがいいとする見方もあるようだが、それほどとは思わないが、キリストとピアスならば、個人的には思い浮かぶものはある。
キリストは十字架に貼り付けられるときに、手足を十字架型に組まれた木材にくぎで打たれた。
その部分には穴があいたので、耳たぶに空ける穴とは共通点がある。
ただし、それは作者の意図するところではないと思う。
短歌の情景
歌を歌う時間というのは意外に長く、その間壇上に人がいてそちらに視線を向けるわけではない。
おそらく、キリスト教系の学校の講堂での出来事なのだと思うが、それならば賛美歌を暗記しているため、歌詞を見る必要もないので、斜め前に立った友だちの耳の後ろ側から視線を向けることとなったのだと思う。
「見る」の意味
作者は、結句を「見る」としているところから、最初は偶然に目に入ったものの、その視点のおもしろさに惹かれて、途中から「見る」という能動的、意識的にしばらく視線を向けていたのではなかったか。
自分でもピアスをしても、穴の裏側がどうなっているのかは見えることはない。
友だち本人も見ることはないその部分を、「見る」ということの不思議さを意識するという体験がそのまま歌となっている。
「後ろから」がポイント
この歌のポイントは、そのアングルのおもしろさと不思議さにあり、それを表すのは「後ろから」の言葉となる。
そこに意思を表す「見る」がついた結句は印象深い終わり方となっている。
この歌を読んだ感想
人の後ろ姿に接近してそれを長時間見るという機会は稀なことです。そこへさらに、普段はピアスの裏にあって見ることはない、見ようと思うことももない「ピアスの穴」という存在があるということへの気づきが短歌のもととなっています。ちなみに、「穴」というのは、空間であり本来何もないものです。穴を形作るのは耳の肉または皮膚であり、それに取り巻かれた空間が「穴」です。そもそも「穴」それ自体の存在が不思議なもので、そこに焦点を当てた不思議な短歌だと思います。
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小島なおについて
こじまなお 1986年生まれ 17歳で角川短歌賞受賞受賞。母は歌人の小島ゆかり。
歌集は最新歌集『サリンジャーは死んでしまった』がおすすめです。