日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも 塚本邦雄  

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日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも 塚本邦雄

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日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも 塚本邦雄の有名な短歌代表作品の訳と句切れ、文法や表現技法について解説、鑑賞します。

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日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも

読み:にほんだっしゅつしたし こうていぺんぎんも こうていぺんぎん しいくがかりも

現代語訳

日本を脱出したいものだ。皇帝ペンギンも、ペンギンの飼育係もまた

作者と出典

塚本邦雄
『日本人霊歌』 (昭和三十三年刊)

塚本邦雄の短歌代表作5首 ほととぎす啼け私は詩歌てふ死に至らざる病を生きむ

 

用語と解説

・皇帝ペンギン…ペンギンの種類のひとつ

・「脱出したし」…サ変動詞「し」+助動詞「たし」「したい」の文語が「したし」。意味は脱出したい。

句切れと表現技法

・「脱出したし」で句切れ

・「脱出したし」のあとに字空け

・字余り

・破調の歌

解説

塚本邦雄の代表作で、寓意に満ちた作品の一つ。

塚本邦雄は前衛短歌の旗手

塚本邦雄は、近代短歌の後の、現代短歌の流れの中で、それまでにはない新しい短歌である前衛短歌というジャンルを切り開いた。

そのため、同作者の歌には、難解で意味がわかりにくいものがある。

前衛短歌に限らず、短歌一般は、必ずしも意味を理解しなくてもいい、または、人と自分とで、とらえる意味や感じ方が違ってもよいといわれる。

特に教材としての前衛短歌は、「今までの短歌とは違うこのような歌がある」というところに掲載の意義がある。

前衛短歌は短歌史ではやや重要な位置づけとなる。

その上で、この歌の意味を自分なりに探すのが最も良い鑑賞となるだろう。

表現技法の破調

「破調の歌」は、57577の字数にとらわれない歌をいい、この歌の句はあえて言えば下のように分けられる

日本脱出/したし 皇帝/ペンギンも/皇帝ペンギン/飼育係りも

その際の字数は

にほんだっしゅつ したしこうてい ぺんぎんも こうていぺんぎん しいくがかりも 7-7-5-8-7 となる。

「日本脱出したし」の字空けの意図

なお、初句の「日本脱出したし」のあとには、字空けと呼ばれる空間がある。

これは、字数の上で

日本脱出/したし 皇帝/ペンギンも

となって、「したし 皇帝」で7文字の組み合わせとなるので、そこにある「したし」の句切れを強調するためだと思われる。

皇帝ペンギンの意味

この短歌は、戦後に詠まれた短歌であるため「皇帝ペンギン」「皇帝ペンギン飼育係」に、天皇と国民、天皇制への批判など、天皇にまつわる解釈をする説もあるが、あえて「天皇」などの実在する人物に結び付けなくても、理解は可能と思われる。

皇帝ペンギンは、「皇帝」とつくように、中心となるものであるが、「飼育係」という言葉から考えると、南極に自由に暮らすペンギンではない。

動物園に飼われているペンギンであることは明らかである。

飼われているペンギンが「日本」もしくは、檻を脱出して自由になりたいなあと思ったとしたら、これは十分に理解できる状況だろう。

しかし、作者は、それにまた、ペンギンを飼育している飼育係、管理者であるはずの人もまた、同じように自由と解放を願っていると続けている。

他の場面なら、例えば「学校の生徒と先生」とか、「会社の社員と上司」なども同じような関係を示す人として置き換えられるだろう。

この歌の主題と意味

この歌の主題は、窮屈な日常からの解放を願っているペンギンと飼育係として、誰の心にもある自由を求める気持ちを表しているともいえる。

「日本」の意味は

作者が「日本」としたのはこちらも、短歌にはっきりする答えというものはないが、皇帝ペンギンはそもそもが、南極など日本ではない外国にいるべきものである。

なので、「檻を脱出したい」ではなく、もっと飛躍して、「日本」としたとした方がスケールが大きくなる。

本来、動物は国籍などは持たない、また、野生で管理されることもない、自由な存在であるはずなのである。

この「自由」への渇望は、これまでの短歌の定型である「57577」の枠を破る「破調」によっても存分に表されていると言える。

あらためて思えば、塚本邦雄はそれらの伝統を越えて新しい歌を作ろうと志した歌人であった。




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