旅終へてよりB面の夏休 黛まどかさんが作者の教科書掲載の俳句の意味の解説、鑑賞を記します。
「B面」の比喩と句またがりに特徴がある句です。
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旅終へてよりB面の夏休
現代語での読みと発音:
たびおえて よりびーめんの なつやすみ
作者と出典:
黛まどか まゆずみまどか
現代語訳
旅に出て帰ってきてからそれより後の夏休みはまるでレコードのB面のようだ
句切れと切れ字
・句切れなし
・切れ字なし
季語
・季語は「夏休」(「み」の送り仮名はない)
「夏」の季語
形式
有季定型
表現技法
・比喩(隠喩) 「B面」の部分
・句またがり
・体言止め
語句と文法
・終えてより…「より」は「から」と同じ。 「それ以降」の意味
・B面…レコードの裏側を指す
解説
現代の俳人、黛まどかの受賞「B面の夏休」作のタイトルとなった作品。
「B面」の意味
「B面」の表す作者のとらえる夏休みの特徴に理解のポイントがある。
B面というのは、CDではなくレコードのことで、レコードは表であるA面を訊いたら、裏返してB面を聞くという順番になる。
そのため、華やかな主要な曲、いわゆるヒット曲はA面に入ることになっている。
それに対して、B面はA面に次ぐ曲で、地味な印象の曲が収録される。
夏休とB面の比喩
「B面の夏休」とは、「B面の曲のような夏休み」という比喩である。
終わってしまった「旅行」が夏休みのもっとも主要な楽しいイベントであり、それが終わってしまえば、それを超える出来事はない。
つまり、メインイベントの旅行が「A面」であったわけで、もはやすることもない退屈ともいえる残りの日々が「B面」と表現されている。
句またがりの表現技法の効果
「終えてより」が、「終えて/より」と初句と2句に句またがりで配置されることにより、「B面」は句の頭ではなく、2句の3文字目に開始することとなる。
旅終へて/よりB面の/夏休
句の頭に配置される言葉よりも、それ以外に置かれる方が印象は薄くなる。
B面というのは、そもそも印象に乏しい夏休みであるという意味なので、句またがりの配置はそれに一致して効果をあげている。
対して「夏休」は結句の頭から5文字で配置され、結句を丸々使う体言止めで、言葉の印象が強い。
作者の思い
「B面の夏休」には、作者はもはや楽しさを期待していない。
暑い夏のやるせない退屈な日々。
そのまま平板な休暇が続き、夏休みが終わりに至ることを予感しているのだろう。
黛まどかの他の俳句
観覧車より東京の竹の春
かまいたち鉄棒に巻く落とし物
バレンタインデーカクテルは傘さして
黛まどかについて
黛まどか まゆずみ まどか
1962年神奈川県生まれ。「B面の夏」50句で第40回角川俳句賞奨励賞 受賞。父は俳人の黛執。
句集「てっぺんの星」。