ふるさとを取り戻しゆく桜かな 照井翠 俳句の大意と感想  

広告 教科書の俳句

ふるさとを取り戻しゆく桜かな 照井翠 俳句の大意と感想

※当サイトは広告を含む場合があります

ふるさとを取り戻しゆく桜かな 作者照井翠の教材に使われる俳句の意味の解説、鑑賞と感想を合わせて記します。

スポンサーリンク




ふるさとを取り戻しゆく桜かな

現代語での読みと発音:

ふるさとを とりもどしゆく さくらかな

作者と出典:

照井翠  てるい みどり 句集『龍宮』

現代語訳

津波と震災に見舞われたこのふるさと、以前の賑わいと平穏を取り戻すかのように咲く桜であるよ

 

句切れと切れ字

・切れ字 「かな」

・句切れなし

季語

季語は「桜」 春の季語

形式

有季定型

その他表現技法

擬人法

俳句,比喩,解説
俳句の比喩表現3つ 用例と解説

俳句の比喩表現では、主に3つの種類の比喩、直喩と隠喩、魏婚法が使われます。 直喩と隠喩は「ごとく」や「ように」の語を使うか使わないかで違いが分けられます。 俳句の3つの比喩表現を用例をあげて解説します ...

続きを見る

 
 

解説

岩手県の照井翠が2013年刊行の『龍宮』に所収した俳句。

2021年「俳句界」にも連作として発表されている。

この句の大意

東日本大震災からの回復を詠んだ句。

作者照井翠は岩手県の俳人で、それまでも震災、特に津波の被害の大きな地域の被害を詠んでいる。

「ふるさと」は、震災の被害にあった沿岸部の地域と思われる。

岩手県の東側の町は、津波による被害で壊滅的な打撃を受けた。

ほとんどの家や建物は海に流されて、どこが道路か宅地か、町だったのか畑だったのかもわからない状態で、故郷の景色は一変した。

震災から数年が経っている頃、何もなくなった瓦礫の町から、復興のために植樹され、町が町らしい様子に戻っていく風景の中で咲く桜を詠んだものと思われる。

「ふるさと」の示す意味

震災の被害で変わり果てた景色は、作者にとって馴染み深い「ふるさと」の眺めとはかけ離れたものであったろう。

そこに建物が立ったり、人々が戻って暮らしを再開したりするのを見るにつれ、やっと、「ふるさと」であるという実感が伴うものとなったと思われる。

「ふるさと」のニュアンス

人がある地域を「ふるさと」と呼ぶときには、単に町名や代名詞とは違う生まれ育った町に対する思い入れがある。

「ふるさと」は、その思い入れを示す言葉であり、意味は同じでも、訓読みの「ふるさと」に対し、音読みの「故郷」とはニュアンスが違う。

「ふるさと」のひらがなの表記とともに、ハ行と、ラ行、サ行の音のかもし出す柔らかさを味わいたい。

「桜」の役割

初句の「ふるさと」は目的語で、そのふるさとを取り戻していく主語が桜となっている。

「桜」が「取り戻す」擬人法となっているが、もちろんこれは比喩であり、桜の花の美しさはもちろんのこと、時を満ちて花が咲くことに作者が希望を見出していると思われる。

生命の象徴

さらに、植物は生命の象徴でもある。

津波で多くの人が亡くなったことを思えば、「復興」は単に町が新しくなり、機能が戻りつつあることへの感慨だけではない。

作者の心が震災後数年を経て、ようやく明るさと平穏を「取り戻していく」思いとなっているといえるが、「取り戻した」のではなく、取り戻しゆく」の途上にあったことが、逆に震災が町と人々にもたらした心の傷の深さを物語る。

2021年の「俳句界」掲載の他の句には植物を詠んだ下のものもある

冬北斗死して一本松立てり

北斗星と松とが並んで見えていたが、その北斗星には「死して」となっており、松だけが立っている風景を詠んだもの。

一本松はこれも命の象徴だが、生命と死とが隣り合わせに配置されており、当時の厳しい状況を伝えている。

桜の句は一連のうちでは希望を感じさせる作品となっている。

私自身のこの俳句の感想

桜の句は美しく思える句ですが、作者の他の句と震災被害の状況を考え合わせると、東北の人たちが大変に厳しい状況に置かれていたことがわかります。被災者の方が桜の花によって初めて「ふるさと」の再現、つまり、震災以前の平和な暮らしが戻ってくることに希望をつないだということは、忘れられない悲しい出来事が背景にあるのでしょう。桜の花によって少しでも希望の思いが芽生えたとしたら、それは桜だけのせいではなく、人に備わった自然の力というべきものかもしれません。被災地の人だけでなく、沢山の人に詠んでほしい俳句だと思います。

照井みどりの他の俳句

喪へばうしなふほどに降る雪よ
双子なら同じ死顔桃の花
春の星こんなに人が死んだのか
三・一一神はゐないかとても小さい
寒昴たれも誰かのただひとり

 

照井みどりについて

照井 翠(てるい みどり)1962年 岩手県出身の俳人。以下ウィキペディアより。

2011年、岩手県釜石市で東日本大震災により被災。2013年、第5句集『龍宮』により第12回俳句四季大賞および第68回現代俳句協会賞特別賞を受賞。『龍宮』は震災に直面して以降の句を中心とした句集で、「双子なら同じ死顔桃の花」「寒昴たれも誰かのただひとり」などの句を収めている。朝日新聞の天声人語やNHKなどにも取り上げられ、高野ムツオの震災句集『萬の翅』とともに俳壇の内外で話題となる。蛇笏賞の候補にもなった。 2019年、エッセイ集『釜石の風』により第15回日本詩歌句筆評論大賞 随筆評論部門奨励賞を受賞。―照井翠 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』




-教科書の俳句
-

error: Content is protected !!